呉明益『歩道橋の魔術師』を読んだ〜戻らない悔恨と郷愁の話〜
最近、昭和レトロが流行っている。
今の三十代以降の人間なら昭和を経験していないはずなのに、レモンの柄の砂糖入れや真鍮の魔法瓶や古風な扇風機を見ると懐かしさを感じるのはなぜだろう。
国や時代が違っても何となく郷愁を感じるものというのはあるのかもしれない。
呉明益の歩道橋の魔術師はまさに体感したことのないはずのかつての台湾のノスタルジーを感じる小説だ。
舞台は台北で60〜70年代に栄え、92年に解体された大規模な商店街、中華商場。
この中華商場は商店と住民の居住区が混在する大