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旧友に会ったのかもしれない

真新しい制服を着た中学生が歩いていく。その隣りには、コサージュを付けたスカート姿の女性。別名、母親。
みんな笑っていて、写真を撮ったり「入学式」と書かれた看板の横で微笑んだりしている。

そのなかで私は、丸くてやさしい顔を見つけた。小学生頃から変わっていない福々しい顔は、遠くから見てもよくわかる。冗談が似合うけれど、どこか知的で、私を威圧する。

小学生の頃の彼女には彼氏がいた。私がその彼と仲良くしていたからといって「今度はえむに手を出した」なんて、意味不明なことを言って私を困らせた。「なんで、えむなんかと……」「女なら誰でもいいんだ」とか何とか。

彼女的には浮気されたと思って、頭に血がのぼったのかもしれないけれど、ボヤもいいところだ。

歴史が好きな彼と、歴史談義をしていただけなのに、ああ面倒くさい。でも、それ以外はとてもいい子だったから、嫌いではなかった。
なのに、なんでだろう。
あまり近づきたくない、こわい感じがするのだ。

きっと彼女は頭がよくて、生徒会長とかずんずんやっていけそうなタイプだから、どこかで線を引いていたのかもしれない。大人になってからの彼女は、ふつうの大人の女性であり、生徒会長でもない。私と同じママさんだけど、娘の中学校の入学式で再びあった私は、とっさに逃げていた。

すり込まれた「私なんか……」という鬱陶しい気持ちは、いくら着飾っても消えやしないのだ。

新中学生たちが、写真を撮りながら笑っている。風がふき桃色の花びらが落ちていく。
友だちとの時間に夢中な娘。

「先に帰るね」と言葉を残し、ゆっくりと校門から出ていった。

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