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不思議に声をかけられる

スーパーで買い物中に声をかけられた。
「はい。」

振り向くとおじさんが立って遠くを見つめていた。
ああ、なんだ。僕じゃないのか、僕の向こう側にいる店員さんに声をかけたんだろう。
そーかそーか、なぁんだ。

と思っておじさんが見ている方向を見てみると、誰もいない。あれ?
どーしたおじさん。誰に話しかけてんだろか?


と、不思議に思ってしばらくキョロキョロしていると、おじさんが話し出した。


「あのぅ。実は目が不自由なもんでよくわからないから教えて欲しいんです。」


おお。なるほど。そういう事だったか。なんだごめんごめん。ごめんよおじさん。
して、何用かな?(そんな風には言ってない)

「イチゴが買いたいんだけど、どれがどんな感じで値段も見えないから教えてください。」


ほほう。どれどれ。すぐそばにイチゴコーナーがあってふたりでじろじろ。イチゴに穴があくくらい選んだ。
でも、言っても僕もイチゴにはそんなに詳しくない。
いくらか話していると、おじさんの視力がどんなものなのかがわかってくる。

おじさんは杖を持っていなかった。だけどここまでは歩いて来られたようだ。
そして、イチゴ売り場だということは理解しているようなのだが、イチゴの粒の大きさだったり、値段は見えないようだったのだ。だから、かなりぼんやりと輪郭が見えるか、色が認識できる程度の視力で物事を見ているに違いない。
それでよく僕に声をかけたなと思うのだけど、逆に黒っぽい服を着ていたから話しやすかったのかも知れないな。


そんなことはいいとして、イチゴの選択に集中しなくては。
値段にそこまで相違はないのだけど、3種類くらいあるイチゴは大きさがまぁまぁ違って、かなりの大粒なものと、中くらいのものと、やや小さめでパックにたくさん入っているものとがあったのだ。

おじさんは大きめと中くらいのものを手に取る。
「これとコレ、どんな大きさですか?値段はどっちが高いですか?」

僕がおじさんの右手に持ってるのがこんなで、左手のやつがこんな感じだよ。
僕はイチゴには詳しくないけど、でっかい方が美味しそうだと僕は思った。
小さい方はね、よくケーキとかに乗ってるような大きさだよ。大きいのはそれよりもずっと大きい。
そう伝えると、じゃあこっちにしようかと決められたようだ。


「すみませんね。すみません。目が不自由なもんで、すみません。」

……。
まるでそれが口癖であるかのように「すみません」とたくさん言っていた。
僕は別に急いでいるわけでもないし、なんなら足を骨折しているひとと僕が買い物カゴを持ってレジまで付いて行って一緒に買い物だってしたことがある。
それに比べるわけでもないが、おじさん程度なら僕にとってはちょろいもんなのである。たやすい、実にたやすいぜ。

そんなにたくさん謝らなくてもいいのになぁと思って、今までそうやって自分の目が不自由だということで負い目を感じて「すみません」とたくさんたくさん言ってきたのかも知れないなぁと考えると、ちょっと切ない気持ちになってしまった。

ま、それはいいとして。
今頃おじさんは家に帰ってイチゴを貪り食っているに違いねぇ。コンデンスミルクを山ほどかけて。
あ、コンデンスミルク売り場わかったかなぁ、あのおじさん。
イチゴ食べるときはコンデンスミルクをかけなきゃただのイチゴじゃないか!かわいそうに。
でもまぁいいか。

めでたしめでたし。


僕は、何やらそうやって、いわゆる障害を持っておられたり、おじいさんとかおばあさんに声をかけられることがまぁまぁある。
何がどう話しかけやすいのか知らないけど、そうやって話しかけられて、いくらか世話をさせていただいた事が何度かあり、カレーパンもらったりたこ焼きを買ってもらったりした事があるのだ。

不思議。
ひとってそれぞれ、なにかしら持ち合わせている雰囲気か何かで、そういう出会いが生まれたりして、奇妙な出会いを経験しているひとがいる。
そういうのって不思議よな。


不思議体験アンビリバボーだな、これからの僕は。


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