喧嘩
サービス業のためなかなか取れない土日の連休を、同僚たちに無理を言って取った。今年最後の現場を、2ヶ月前に当選通知が来てから、それなりに楽しみにしていた。
いつも現場に一緒に行っていた母とライブ前日、チケット発券をした車の中で大喧嘩。
「もういい。行かない」
そんな言葉を予想もしていなくて動揺した。母はそのまま車を降りていった。母の行きたいから始まったライブ参戦で、帰ってから怒りのまま明日のために用意したうちわやキャリーを片付ける母。
推しグループ以外も出る合同ライブで、どうせなら他のグループの曲も聞いておきたいと自ら慣れないプレイリスト作りに励んでいた。会場は寒いと噂されていたので、服装も考えてコツコツ買い足していた。倍率の高いチケットが当たった時の興奮冷めやらぬ顔が今でも思い浮かぶ。その日も準備のためと言って1時間早めに仕事を終わって帰宅していた。
とんでもない罪悪感と、申し訳ない気持ちが押し寄せる。こんな大惨事の喧嘩は今までしたことがない。初めてのぼっち参戦の後の新幹線でどうしようもなくてこれを書き始めた。
日常の中で積み重なった不満が母にもあり、それに対して謝罪を求められて理解できなかった。謝罪はしたが、今後は提案をして解決していきたいと伝えた。伝わらなかった。結局は謝罪したくなかった私のガキンチョな心が原因だと思う。私も自分勝手だった。
ライブは最高に贅沢だった。いろんなアーティストの有名な曲が怒涛の展開だった。隣には母の分のチケットを買ってくれた初めましてのお姉さんが座ってくれた。一緒に騒いだ。この1年間母と行ったライブをふとした場面で思い出してしまう。夏に観たライブでは一番前の席が当たって2人で推しのファンサに騒いだ。「こんなおばさんがいてびっくりしないかな」と隣の人にも興奮気味に話しかける母。アリーナしか取れない銀テを初めて持って帰った。3種類の色の何の変哲もない銀テだが、1本ずつの私とは違って母はせっかくだからと取れるだけ持って帰ろうとしていた。
帰ってきた時にゴミ箱には怒りに任せて捨てられた銀テがあった。
母の好きだった推しも、ライブの思い出も怒りが消してしまった。私が引き起こした怒りだった。取り返しのつかないことをしてしまった。
「仲直りできるよう祈ってるよ✨」
ライブを隣で見てくれたお姉さんがメッセージと一緒に撮った写真を送ってくれた。できるかな。わかんないな。もう一緒に行ってくれないかな。
あの日に戻って自分を止めたい。
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