ネットの海に散らばる同級生 同級生詐欺のエピローグ

 

 同窓会詐欺の一件が終わり、どこか寂しいような気持ちを抱えながら毎日を送っていると年始頃にニュースで見たとある事件がポッドキャスト番組”さむいぼラジオ”で取り上げられていた。
 この事件は登場人物の肩書がなかなか面白く、興味を持って事件当時に調べてみてはいたものの、さほど情報が出回っておらず友人間で「きっとそのうち”さむいぼ太郎”が取り上げてくれるさ」なんて話していた。
 それからこのポッドキャストを聞くまですっかり忘れてしまっていた。
 
 番組の中で、事件に至る背景や加害者側の人柄、そして被害者との関係性が事細かに語られていた。
 彼はどこでこういった情報を手に入れるのだろう。独自の情報網みたいなものがあるのだろうか。
 番組内の他の事件に関しては実際に事件現場周辺へと足を運び、近隣の住民に声を掛けているというが、私には到底そこまで出来そうにない。そして私の風体では早々に通報されて職務質問を受ける未来が見える。
 
 今回公開されたエピソードを聞く中で、その事件の被告人の女性の勤務先や電話番号などが掲載されているサイトがあるという事実を知った。
 
 早速調べてみた所、本当に身分証を持った被告人女性の写真が掲載されていた。
 サイトとしては「詐欺・借りパク撲滅の為の情報共有」を目的として掲げている様だが掲載されている情報などを見る限り闇金間での情報交換のような役割を持っているのではないかと推測される。
 サイト内で公開されている写真の中には、また別の女性が浴室で免許証を手に全裸や下着姿で撮られているものもあった。これは女性にのみ行われる様だ。私が見た限りでは男性はちゃんと服を着ていたか身分証の写真のみであった。
 それを見て闇金ウシジマくんでマサルの母親が同じことをされていたのを思い出す。本当にあるらしい。

 それについて調べてみたところ、審査の際や、返済が遅れた際などに「担保として写真を送信してくれ」という様な要求をされる事があるようだ。審査の際に職場なども割れる為にこうした担保は有効になるのだろう。
 ただ男性に関してはこれは行われていない様である。職場に全裸の写真を送られては男性だろうと十分過ぎるくらいにダメージは有ると思うのだが・・・。きっとそこまでせずとも他に追い詰める手段があるのだろう。
 女性に関してはその後の写真の活用(風俗店などに斡旋する場合など)があるから撮っているとかそういうことだろう。
 
 因みに似たようなビジネスとして「ひととき融資」というものがあるらしい。金銭にこまった女性に対し「融資」として金銭と引き換えに性交渉を行うというものだ。
 ただの売春ではないか、と思えてならない。
 売春というと聞こえが悪いので表現を変えて印象を変えようということだろう。なんだか3桁台の体重のデブを”ミケポ”と呼ぶのと似ている。小手先の言葉遊びで自己肯定しようとするくらいなら黙って堂々としていた方が清々しいというものだ。
 また、海外ではヌード写真と引き換えに金を貸す「裸ローン」なるものもあるらしい。これはこれで直接的な表現過ぎて品が無い。言葉というものは難しいものだ。
 
 サイトを適当にスクロールし、個人情報を晒されている様々な人を見てなんだかおセンチな気持ちになっていた所、ふと「知人もこの中にもしかしたら居るのでは」と思いついた。
 一度過るときになって仕方なくなり、すぐにサイト内でヒロシくんの名前で検索してみるとあっけなく出てきた(幸か不幸か、他の知人は出てこなかった)。
 しかし生年月日と名前までは一致しているものの、彼に関しては写真と住所といった情報までは掲載されておらず、本人であるかはまだわからない。唯一載っていたのは電話番号だけである。
 逸る気持ちを抑えきれず、ヒロシくんの電話番号を知っていそうな人間に片っ端から当たってみる。すると一人だけ彼の電話番号を知っている人間に辿り着いた。

 電話番号を確認してみるとそれはヒロシくんのもので間違いなかった。
 
 そのサイトで公開されていた被害内容は「寸借詐欺 借りパク」だった。

 納得である。実際に聞いた話や遭いかけた話と一致している。 この世に本人不在にも関わらず、ネットの海では優良児童としての表彰から詐欺被害、なんなら通話アプリのアカウントまで残り続けている。なんだか不思議なものだ。生きた証はしっかりと刻まれている。なんなら今生きている私よりもしっかりと刻まれている。

 サイトへの掲載日は私が同窓会詐欺に遭いかけた3ヶ月前であった。ここから様々なものが加速し始めたのかもしれない。ちょうどその頃にまた別の同級生に対して同窓会詐欺と別に寸借詐欺を行おうとしていた。結局それも失敗に終わっていた為、それも相まって色んなところへの借金でどうにも首が回らなくなった結果が同窓会詐欺の様だ。

 彼はその一件が発覚した際、私に対して「借金はない」「生活が苦しいのは税金の滞納による追徴課税があるから」という風に話していたがやはり借金はあったらしい。
 借金があるというのは確かに同級生に知られたいことでは無いだろう。しかしそこでプライドを見せるよりも、もう少し早い段階でそれを見せていたらこんな結末にはならなかったのではないか、と思えてならない。

 そしてそのサイトの最後に記載された勤務先欄には彼の名字を冠した会社名が記されていた。
 
 今度はその社名を調べてみると地元から車で1.5時間程の所にあった。グーグルによると今では廃業している。どうやら彼の供述で以前あった「一度友人たちと独立した」際のものだろう。
 現場のストリートビューには砂利の空き地と数台のバン、その横に同業と思われる会社が写っている。その会社を調べてみると彼の独立よりも前から創業している様で、彼は恐らくここに勤めておりそこで下請けとして独立したのだろう。
 ただ一つ引っかかったのは彼の立ち上げたであろう会社の代表者の名前は彼のものではなかったということだ。
 名字は同じであるが他の男性名である。名義貸しが行われたのだろうか。最初、その名前は彼の父親かとも思ったが彼は片親だったことを思い出した。すると母方の親族のうちの誰かであろうか。
 ただ名義貸しが行われている可能性についてどうしても不穏に思えてならない。普通であれば名義貸しをする必要がないのだ。
 あるいは親族が独立してやっていた会社に彼が勤めていたのかもしれない。親族の会社で働いているというのも何だか人に話し辛いだろう。彼の妙なプライドを思うとその可能性も大いに有り得る。
 一度その会社の前まで行ってみようか(あわよくば誰か事情を知っている人に話が聞けないか)、とも思ったがやめた。流石にそこまでの熱意も無いし何より迷惑になりそうだ。
 
 デジタルタトゥーとはよく言ったものだがタトゥーならば本人の体と同時に消滅するがデジタルタトゥーはそういう訳では無い。
 本人が消えたとしても残り続ける。
 
 私と同い年で爬虫類ショップで働いていた知人は数年前自殺した。たしか首吊りだったと聞いている。祖母と暮らす家で自室で行った。
 彼女の通話アプリのアカウントは未だに私の友達リストに残っており、一言の欄には「ダイエット中です。」とだけ書かれている。
 最後の瞬間、21gのダイエットに成功し、その後肉体としての質量も失って数年経つが未だにダイエットが続いている様だ。
 タトゥーとまで言わないが彼女のその言葉もこの通話アプリサービスが続く限り残り続けるのだろう。
 
 
 昨今、ネットワークが発達し様々な人と繋がることが出来るようになり、今まで知り合うことが出来なかった様な人とも容易に繋がる事ができる様になった。
 それによって救われる人は増えたが、それと同じくらい人の悪意によって傷つけられる人も増えた。人と触れ合う機会が増えただけにその一回毎の価値が減少していく。
 
 闇金やひととき融資なども一見するとただのアングラの文化でしかなく、ただの犯罪行為だ。実際やりすぎだと思えるものも少なくない。
 しかし、一定数そういった環境でしか生きていけない様な人間も間違いなく存在する。
 ヒロシくんもその類の人間だったのだ。
 
 そしてその最後の居場所にも居られなくなった結果がこの末路だ。
 
 彼が亡くなってもう数ヶ月経った。なんの実感も無いまま彼は居なくなり、実態のない鬱屈とした気持ちだけが残った。感傷的になるほどに彼に対して気持ちは無いが、その事実がまた鬱屈とした気持ちを助長させる。
 そして私の人生が終わったとしても私が書いたこの記事なんかは残り続けるのだろうと思うとなんだか滑稽でどこか面白い。

 私の人生の薄っぺらさを表すこの文章が肉体よりも残り続けるというのは皮肉が大変効いている。


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