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2023年に読んだ本たち

noteを始めたのと同じ頃に読書メーターにもアカウントを作りました。
それまでもアナログで読書日記を付けたりしたことがあったのですが、読んだ本をすべて記録していたわけではなかったのです。
読書メーターに書くようになってから、自分がどのくらい読んでいるかがハッキリわかるようになりました。つい最近読んだと思っていたらかなり前だったり、読んだことを忘れていた本もあります。記憶ってあやふやなものですね。

さて、森野は2023年の1年間に、ちょうど80冊読んでいるようです。

その中から2023年のマイベストを挙げていきたいと思います。
もっとも、むか~しに出版された本を読んでいる場合もあるので新刊とは限りません。むしろ新刊はわずか。でも面白い本は面白いのですよ、何年たっても。


1 「目の見えない白鳥さんとアートを見に行く」

 川内有緒 集英社インターナショナル 2021年

白鳥さんは中年男性で視覚障害がある方です。まったく見えないそうです。その白鳥さんと一緒に著者が美術館に行ったという記録です。エッセイというかノンフィクションというか。とにかくおもしろい。

目の見えない白鳥さんなので、彼をアテンドしてアートを見に行くんですよね。一緒に美術館に入り、何があるのか、それはどんな絵・彫刻・オブジェなのかを著者が説明していきます。

ところが同じ作品を見ているはずなのに、もう一人の目の見える人と著者はまるで逆のことを伝えていたり。つまり、同じものを見ても白鳥さんに伝える内容は全然違うものになり、そういう体験を通して著者は「見るって何だろう」「鑑賞するって」「作品って」とどんどん考えてゆくのです。もちろん、答えは出ません。

白鳥さんはいろんな人にアテンドされていろんな説明を受け、それを自分の中で消化しながら心の目で「見て」います。著者が見るものも、著者以外の誰かが見るものも、白鳥さんが「見る」ものもすべて異なる、こうした体験が著者の中に変化を起こし、それが克明に記録されていくのが何とも興味深いのです。

見える人は目で見ているから、見れば何となく「わかったつもり」「感じたつもり」で過ぎてしまうことが多いようです。それが白鳥さんへの説明を通してどれほど「見えていなかったか」「他者はどれほどちがって見ているのか」があからさまになっていきます。

この本を読んで、ああアートを見に行きたい、できれば白鳥さんや著者と一緒に、と思いました。それは著者同様、自分自身を深堀りする苦しい作業になるかもしれませんが。


2 「日本の同時代小説」

斎藤美奈子 岩波新書 2018年

斎藤美奈子は文芸評論家で思いも寄らぬ方向からズバッと切り込むその切り口が大好きなのですが、それは多分、この著者の思索の方向性が自分の嗜好に似ているからだと思います。ですからいわゆる昭和のオジサン的な方面からはとても嫌われるタイプじゃないかな。

ともあれこの本を読んでなぜ自分が明治の文豪たちの近代文学に今いち入り込めなかったか、その答を教えてもらった気がしました。興味があればぜひ読んでみてください。

内容は、1960年代から10年ずつ、よく読まれた本たちの傾向と時代との関わりとが綺麗に整理して語られています。そうくるか、確かにそう言える、の連続で楽しいです(わたしは)。
さて2000年代以降はディストピアなんて書かれていましたが、これからの未来はそれを超えてどこへ行くのでしょう。願わくはそこに希望があって欲しいと思うのですが。


3 「老後とピアノ」

稲垣えみ子 ポプラ社 2022年

何の予備知識もなく、全然知らないでノリで買ってしまった本でした。そうしたら著者は元朝日新聞のアフロ記者さんではありませんか!
ええと、「稲垣えみ子」で画像検索するとお顔の周りに満開のひまわりが咲いてるような(色は違うけどね)アフロヘアの写真が出てきます。そのヘアスタイルで(も)有名な記者で朝日新聞の編集委員を務められ、その後早期退職してミニマムな生活だったりレシピだったり、フリージャーナリストとしていろんな本を書かれています。

で、早期退職して40年ぶりにピアノを再開したという奮闘努力の記がこの本。ユーモラスな筆致に音楽への愛情があふれていて自分もピアノを弾きたくてたまらなくなります。
ただまあ挑戦する曲がすべて中級以上のものばかり。再開一曲目が「きらきら星変奏曲」、その後もショパンの64-2のワルツだの、悲愴の第3楽章だの、それ、初級者が真似できる状況ではありません。鳩先生もびっくり。
レッスンの仕方も、もうなんというかすごいです。こういう風に何事もがんばらないとモノにはならないのだな。


4 「祖母姫、ロンドンに行く!」

椹野 道流 小学館 2023年

よく知っている読書家ふたりが全く別々に絶賛していたので読んでみました。なるほどおもしろい!
知らなかったのですが著者は小説家で、少女向けラノベと言っていいのかな、そんなジャンルの本をものすごくたくさん書いている方でした。でもこの本はそれとは関係なく、ご自身のお祖母様(80代、時々車椅子使い)のロンドン観光をアテンドするという、言わば孫娘の奮闘記です。

このお祖母さまがまさに姫君。数々の名言と迷行動?が著者をあたふたさせたり困らせたり。お祖母様は既に他界されているのですが、今だからこそ書けたのでしょうね。その当時はわからなかったあれこれが、時間が経ち執筆したいま初めて胸に落ちることがたくさんで、そのことに心打たれます。

豪華旅ならではのホスピタリティもすばらしい。こんな旅、自分もしてみたいです。もちろんアテンドされる側で。


5 「『心の病』の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか」

林(高木)朗子・加藤忠史(編著) 講談社ブルーバックス 2023年

正直言って理科系の内容は苦手なんですが、そしてこの本も読んでもわからないことが満載で、特に遺伝子だの脳関係の用語なんか何度読んでも全然頭に入らなくて読めているかどうか疑問なんですけど、それでもすごく面白かったので。

脳を中心とした心の研究は今ここまで来ているのかとしみじみ驚いた、というのがもっぱらの感想です。新鮮だったのは著者たちが発達障害を統合失調症と同じ「疾病」として捉えているところ。脳や医学の研究者には当たり前なのかもしれませんが、そして研究が進んでそういう捉え方になっていったのかもしれませんが、自閉症(発達障害のひとつ)を治療可能な疾病のカテゴリーとして考えることが自分にはひどく斬新でした。ほほう、そうなのか、と。

ともあれこうした研究が進展して生きづらさを抱える人たちが少しでも楽になれば良いなあと思う反面、研究の内容によってはダイナマイトや原子力と同じで怖くてまずい方向にいってしまう危険が十分にあるので、そっちに行かないよう心から祈っております。


あれあれ、小説が1冊も入りませんでしたわ。
坂木司のアンちゃんのシリーズとか、古い「ぶたぶた」の本とか、青山美智子とかいっぱい読んだのになあ。みんな面白かったです。ただ、今年は印象に残ったエッセイやノンフィクションが多かったということで。

来年はどんな本が読めるかな。


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