マッチングした女性が不動産詐勧誘者。わざと会ってみた
先日少しだけ触れた、マッチングアプリで騙されに行った話をする。罠にかかったのではなく、わざと罠にかかりにいった。せっかくマッチングアプリをしているのだから、この時期にしかできない人生経験をしたいと思ったからだ。
政府が少子化対策に取り組むことに伴い、たびたびニュースでは婚活の話題が取り上げられるようになった。今まで中高年に出会い系と呼ばれ続けてきたマッチングアプリも、地方自治体が官として運営するような時代になった。5年前には考えられなかった光景だ。
新しいものが世間に広まるたびに、情弱をターゲットにした詐欺が横行する。「ロマンス詐欺」は今年のトレンドと言っていいほど、婚活市場で問題となっている犯罪行為だ。ロマンス詐欺と同じくらい、宗教団体への加入や不動産投資への誘いなど、婚活を頑張る人々の努力を踏みにじるような悪人がアプリ内には紛れている。
それがサクラであれば見分けがつきやすい。ただ、本当に婚活目的でアプリを始めていたにも関わらず、結局勧誘してくるような人もいるので厄介なのだ。私が出会った人は、そんな婚活→不動産投資勧誘の人だった。
不動産投資勧誘、私はこうして騙されに行った
アプリをはじめて半年くらい経ったころ、某航空会社で勤務のAさんと出会った。のちに不動産投資の勧誘を持ち掛けてきた本人だ。はじめは普通のやり取りで、休みの日に何をしているとか、よく出かける場所などを互いに話したりしていた。
Aさんはダンスが趣味で、休みの日はダンス教室に通うなどアクティブな様子だった。プロフィールの写真を見ても、たしかにスタイルがいいし明るそうな雰囲気でいいなと思っていた。チャットをしているときに感じた印象も、コミュニケーション能力が高そうな雰囲気があった。
メッセージのやり取りを1週間程度重ねて、まずはオンラインデートをすることになった。平日の20:30に、私はパソコンでZOOMにログインした。
▶オンラインデート、謎の45分
「はじめまして、Aです」
「はじめまして、シュンです」
最初は軽い挨拶から始める。予想と違っていたことは、Aさんが外出先だったということだ。てっきり家から繋げてくるものと思っていたが、どこかのカフェにいるようだった。
帰宅するまで待ちますと伝えても、そのまま通話しようと言ってくる彼女。違和感があったものの、会話を続けることにした。
早速すぎて混乱した。これまでの人生で、あいさつの次に好きな自己啓発本の話題を振られたことがなかったから。このとき、すでに私は察しており、それっぽく受け答えした。ここで真面目にカーネギー・デルの「人を動かす」ですと言っておけばよかったのだろうか。
Aさんが好きな本も聞いたが、その話は頭の中に残っていない。話を聞きながら、この後どのような行動をすべきか考えていたからだ。
<頭の中>
1.仕事が急に入ったことにして逃げる
2.自己啓発の話にこのまま付き合う
3.直接会って話したいと打診する
んーこれは1かなぁ。と思いながら会話を進める。
おっ・・・兆しが変わったぞ。一瞬でも彼女に対して、怪しさを抱いてしまった私は酷い人間だと思ってしまった。世の中、いろんな人がいる。「はじめまして」のあとに「尊敬している有識者って誰ですか」って聞いてくる人だってきっといるだろう。そんな人を疑うなんて酷いことだ。
だって、彼女は本気で結婚を考えているわけだから。
マッチングアプリをはじめてから、女性側からご飯に誘われることなど1度もなかったわけで、聞き間違いかもしれないと思ってしまった。私はテンションが高くなりOKを出した。しかし、LINEでやり取りすることを打診すると、直接会ってから交換したいとのこと。そのような要望は過去にもあったので、引き続きマッチングアプリ上でやり取りすることに。
ん・・・
雲行が一気に変わった。自己啓発からの資産形成関係の質問。いろいろ王道な流れを感じてしまっていたが、この当時は投資関係をまだやっていなかったので、素直に答えた。
ここで45分のデートが終了。
パソコンを静かに閉じて、お茶を一気飲み。大きく息を吐いて、頭を空っぽにする。「うん、これは何かしらの勧誘だな」と結論づけた。この時、ご飯に行くことも都合が悪くなったといえば断れただろう。しかし、何か面白いことにできそうだと誘いにのった。
Aさんから早速メッセージがきた。
このメッセージにOKの返答。
もうデートでなくなったことは確実。ここからどのような展開で、何に誘われるのかを想像しながら当日を迎えた。まさか、相手が3人いるなんてこの時は思っていなかった。
▶なぞのメンバーが揃う
11:50 品川駅
休日、そして最近コロナによる外出規制が緩和されたばかりということもあり、人通りは多くない。もともとオフィス街なわけで、水族館や映画館に用事がなければ、わざわざ来ない。
Google Mapで場所を確認しながらホテルのレストランに着いた。Aさんで予約していたので、入り口で店員に伝えた。「すでにお連れの方がお待ちしております」と、店員に案内されながらレストランの奥に入っていく。
シュンさーん!こっち!
手を振るAさん、その隣には1人の女性。あれがチャットで話していた例の友だちであるということはすぐにわかった。
「こちら、私の友人でOちゃん。上京してから知り合った友達なの。Oちゃん、こちらマッチングアプリで知り合ったシュンさん」
もはや、ご飯デートというよりまるで友達紹介のようだった。冷静に考えたら、マッチングしてはじめて会う人なのに、あたかも昔から知り合いでした風に紹介されているのが違和感すぎる。
「あ、シュンさん。このあと、私の大学の後輩が来るんだ」
その話は初耳だった。
ちょうどそのとき、店員に連れられて男性が現れた。30歳手前くらい、黒いジャケット姿で髪はグリースで固められていた。
「大学時代の後輩です。今は、フリーランスでWeb制作やってるの」
はじめましてと、男性は席に座った。
それぞれ自己紹介をはじめ、料理を注文。
一体これは何の会なのだろうかと思うようなメンバーだった。
ここから怒涛の展開が始まる。
▶不動産勉強会しましょう
「シュンさんは、普段お仕事は何をされているんですか」
男性からの質問に、私が当時勤めていたITコンサル会社での仕事について説明した。おそらく彼は、私がどんな仕事をしているかよりも、外資系・IT系という2つのキーワードにときめきを感じたのだろう。質問する前よりも明らかに目の色が変わっていた。
「Aさんとはマッチングアプリで知り合ったんですよね」
「先輩、いい人見つけましたね」
ここでいう”いい人”というのが、婚活としての話なのかに疑惑を持ってしまっている私は、すでに心が腐っていたかもしれない。ただ、疑う心は大事だと親に教わったからいい。
Aさん「シュンくんは、投資に興味あるんだよね」
うん、そんなこと言ってないよね。
とりあえずここは合わせるのが大事だなということで、「将来のために今から考えています」とだけ答えた。するとさらに男性は目の色を変えて私を見てくる。ターゲットが決まったかのようにね。
「僕はこの近辺に住んでまして、YOUTUBERの〇〇さんと同じマンションなんですよ。もともとは某銀行さんの支店長からオーナーを紹介いただいて、頭金をかなり安くしてもらって購入したんです」
すると隣にいたOさんが前のめりになって「すごいですね!」と食いついていた。こいつも仲間な匂いが急にし始めていた。
「で、そのオーナーの知り合いに不動産投資家がいるんですけど、僕はその投資家の下で2年間勉強してきました。そして、いま3件の2LDKの部屋を賃貸として貸し出しています」
「えー私も1つ部屋持ってるけど、全然儲からないんだよな。そういうの教えてほしい。航空会社辞めてから不労所得を夢見てるから」とAさんは言う。ここで初めて航空会社を辞めていたことを知る。
Oさん「私も覚えたいです!勉強会誘ってください!」
はい!みんな仲間でしたー!
こうして無事に3対1の構図が完成したわけだ。
そして「シュンさんも一緒にどうですか」とトドメと言わんばかりの一言がくる。ただ、ここはAさんの面子もあるため帰ってから考えますと言った。すると、LINEグループを立ち上げる流れになり、「不動産勉強会」というLINEができた。
▶即ブロック
そこからはひたすら男性が仕事の楽しさについて語る時間。その合間に、不動産事業の魅力や、今まで出会ってきた人のすばらしさについて語る自己満足タイムとなった。
「さて、ここの会計は・・・」
伝票を広げた男性が、僕のことを見てくる。
「シュンさん、我々男性陣で女性2人のご飯をごちそうしましょう」
たいした金額ではないので奢る分には構わない。しかし、さっきまで儲かっていると豪語していた人の発言とは思えないくらい、背中が急に小さく見えた。そしてお会計を済ませ店の外に出る。
Aさん「それじゃあ、私は英会話教室があるから」
そうだ、もともとマッチングアプリで出会ってデートしていたのだった。私はすっかり忘れていた。もうAさんの印象すら全くないくらい、不動産投資の勧誘にくぎ付けだった。
その後、LINEで勉強会の日程が組まれましたが、私は即ブロックした。これ以上つき合ったら、本当に帰ってこれないところまでいきそうだったからである。
マッチングアプリでの投資詐欺被害はニュースでたびたび取り上げられる。福井県では、アプリで知り合った女性からの誘いで始めた暗号資産の投資で1430万円騙されたという事件も発生した。もしかしたら、本当に不動産を勉強するためのメンバーだったかもしれない。Aさんが私と結婚する未来があったのかもしれない。
怪しいと思ったら自分の直観を信じるのが正解なのだ。
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