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アイデンティティと継承語教育学習(ニュージーランドでのケーススタディ)

今回は、アイデンティティと継承語教育について、ニュージーランドでケーススタディとしてとれたデータを紹介していきます。

被験者は
① NZ(White)と韓国人のミックスである大学生
② 韓国人と日本人のミックスである大学生

です。

この二人の語りを分析し、継承語教育はアイデンティティ形成にどのような役割を果たすのか?について筆者であるParkとChungはデータをまとめています。

参考文献
Park, Mi Yung & Chung, Katalina. (2022). Identity and heritage language learning: a case study of two mixed-heritage Korean university students in New Zealand. Multilingua. 42. 10.1515/multi-2022-0044.

① British-Korean mixed の大学生のケース

①の被験者は、WhiteとAsianのミックスです。
彼女は韓国人の母親が通う教会のアクティビティを通してニュージーランドに住む韓国人や、韓国にルーツを持つ人達とかかわりがある環境でそだってきました。
学校は現地校に通っている為、校内ではマイノリティに類似されているそうです。

彼女の語り 社会的に構築される“自分像”

彼女はインタビューを通して、Kiwiとして扱われず、外国人として扱われていることに気付いたことが、自分はNZ人ではないということに気付くきっかけになったと述べています。

上記に示した通り、彼女はWhite Asianなので、ニュージーランド国内で作られた“NZ人は白人である”というイデオロギーに彼女の見た目がそぐわないことから、NZ人ではないと決めつけられてしまったということでしょう。

このことから、人種アイデンティティとは結局自身が構成するするものではなく結局社会的に構成されてしまうものだという現実が見えてきます。

また、彼女は継承語への興味は幼い時には無く、主体性を持って継承語を学んできた経験は幼少期には無かったと述べています。

しかし、大学で韓国人と出会うきっかけが増えたことから彼女のマイノリティ言語である韓国語の重要性を感じるようになったと述べています。この経験が、自身のアイデンティティ形成にも影響を与えたとインタビューで述べています。

彼女は自身の韓国語能力は高いと認識していますが、大学で韓国人と話すことが増えたり、教会で韓国語を話せる空間があったことが、“Becoming more Korean”という感覚に繋がったそうです。

彼女は特に教会を自分の居場所として心地よく感じていました。韓国やNZの国単位での1国家1人種主義のようなイデオロギーが無い空間に身を置けたこと、彼女と似たようなバックグランドを持つ人も多かったことが居心地の良さに繋がったのでしょう。

彼女の言説から、継承語教育が受けられる場所は、語学能力を発達させる目的だけでなく、彼らにとっての居場所にもなり得ることが分かるでしょう。


② Korean-Japanese mixed の大学生のケース

彼女は、韓国人の父親と日本人の母親に育てられました。
両親はそれぞれの母国語よりも、まずは英語を話せるようになることが大事というFamily Language Policyを持っていたため、それぞれの継承語能力は低いと自己評価しています。

しかし、家庭では韓国料理が並んだり日本料理が並んだりすることがあり、マテリアルカルチャーを通してそれぞれの文化を学んでいたと述べています。また、この生活環境は彼女のそれぞれの国に対するポジティブな印象を持つのに大きな役割を果たしたと述べています。

(家庭の中に存在する文化、すなわち料理、家具、本、などは専門用語でマテリアルカルチャーと呼ばれています。)

また、彼女は年齢を重ねるにつれて自身の人種バックグラウンドから、それぞれの国の文化を知ることや言語を知ることが大切だというプレッシャーを感じるようになったそうです。
もし、それぞれの言語を話すことが出来たり、文化を知っていたら、自分の人種アイデンティティを語ることが出来る為、文化や言語を知ることは大事だと述べています。

まとめ


筆者は彼女たちとのインタビュー、そして言説の分析の結果を以下のようにまとめています。

・成人の継承語教育学習者にとっては、彼らの継承語の使用、またはそれを学びたいという意欲は、彼らのマイノリティ言語コミュニティ(①のケースでは韓国語、②のケースだと日本語と韓国語)に属したいという思いから生まれること

・彼らの人種アイデンティティは社会的に構築されること(自身が思っている人種アイデンティティは無視され、社会的なイメージに合う人種に属されること。すなわち、今回のケースではNZは白人社会というイメージが、アジア人のバックグラウンドを持つ彼女たちの見た目と一致しないことが、彼女たちの人種アイデンティティの形成に影響したということです。)