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「水車小屋のネネ」レビュー♡「家族」に傷ついても、「他人」で再生する。

津村記久子さんの本すべて読んでいる津村ファンのキノキノです。
今日は「水車小屋のネネ」の読書感想文を書きます。


家族によって傷ついた人間が、他人によって再生していく物語。

18歳と8歳の姉妹が、街を出ていくところから物語が始まるんですけど、
この姉妹は、親との関係が良くなかったんですよね。
お母さんに学費使い込まれたり、母のパートナーにきつく当たられたり。
で、物語の中ごろに出てくる聡という男子も、家族との間にトラブルがあって。
ひどい言葉にも傷ついて、「自分はもうどうなってもいい。」と思うほど
人生暗闇にいた。


でも、たどり着いた水車小屋のある町で、たくさんの「他人」と出会う。
その他人に良くしてもらって、40年の人生が、そこで続いていく。
「自分はおそらく、これまでに出会った人々の良心でできあがっている。」
という妹の律の思いが、ホント泣けるくらいじーーーーーんとくる。

津村さんの作品って、「まともな家の子供はいない」って本もあるくらい、
「どうしようもない親の元に生まれてしまった」主人公が多い。
今だったら、「親ガチャ失敗」とか言うのかな。

でもね、希望があるの。
親はどうしようもないけれど、「まともな大人の他人」とか「まともな先生」とかに助けられて、よくしてもらう。
で、自分が大人になって、その善意を他の人に返していくという
善意のループみたいなものが描かれてるから、
親がどうしようもなくても、人生捨てたもんじゃないよ。と思える。


みんなの真ん中にいるのは、人間ではなく動物。


タイトルにもある”ネネ”はヨウムというのことなんですけど、
結局、この鳥が主役なんだよね。
賢くて、(3歳児くらいの能力がある)しゃべったり、歌ったり仕事したりするんです。
(時に人助けのファインプレーをしたり!)

この姉妹とか、おそば屋さんの夫婦、聡…その他いろいろな登場人物が、
落ち込んだり、これからの未来のことを考えたり、新しい決断をしたり、話しにくいことを話そうとしたり、そして楽しい雰囲気のとき、
いつもネネが真ん中にいるんです。

なんか、わかる。
うちにも猫がいて、小さい命なのに、言葉を発さないのに、人間よりも強く癒されたり、繋がれたりする。暮らしの真ん中に、人間ではなく動物がいるという感覚。

このヨウムのネネは、50年も生きるという。
姉妹が町に来た少女のころから、中年になるまで、ずっとネネがそばにいる。
人間と鳥、同じように歳を重ねて、老いてゆく。
尊くて、愛おしい存在。

「鳥の世話、若干。」という求人から色々な人の人生が絡まってゆく、
巡り合わせの鳥ネネはタイトルになるくらい、主役なんですね。


他人の子を、自分の子のように見届けられる人生。



ちなみにわたしこの本で2回、涙流してるんですけど、
自分が元から持っているものは何もない。出会った人が分けてくれた”いい部分”で自分はできている。」
この言葉のシーンで泣いたわ。

これ、家族関係でままならなかった少年が大人になって、
自分の母親ではなく、律に言うんです。
他人の律が、幼かった自分によくしてくれたから。

そういうシーンが、この町の中でよく見られる。
普通、1人の人間の人生を長くずっと見守れるのは親だと思う。
けれど、この小説の登場人物たちはみんな、訳あって、一般的な親子関係は築けなかった。
その代わりにといってはなんだが、他人の子供を、見届けていく。
それも、恩着せがましくなく、変にベタベタせず、他人同士のまま、
温かく、手を差し伸べる。
律も、姉の理沙も、子供を持たなかったが、それでもいいよね、と思わせてくれる。

あと、p302〜p303にかけても泣いた!
誰か読んだ人、どう?!ここ泣くよね?笑

まとめ🌷


津村さんの作品の中で、最も長いのかこの小説。
(482ページある!)
1981年〜2021年の姉妹の40年の人生を描くって…すごい、本当。
その時代ならではの、映画とか音楽とかテレビとか、携帯が出てきたとかの
背景も緻密だし、震災とかコロナとかも絡んでくる。

わたし、この作品の舞台は、岐阜県かなあと思っていたのですが
津村さんのインタビューを読んだところ、長野県かな?
山があって、川の水の音のする町。おそばの美味しい店。災害がありつつも、人が優しくて、人とのつながりが温かい町。いいな。

あと、姉の理沙は、夫婦別姓を選んだのかな?
と思っているのですがいかがでしょう。
(誰に聞いてるんだ笑)

2024年の本屋大賞2位だったそうです。


おわり。


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