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◇1 森に緑を、住まいに木を

2022年10月14日

20年前に奥武蔵の森の木を使って家づくりをしたいと考え始めた木の家だいすきの会。100棟の家づくりのお手伝いを振り返って、感じたこと、乗り越えてきたこと、やろうとしてやりきれなかったことなど、奮闘の記録です。

▼目次
60才過ぎて木の家を建てて感じたこと
自然の中で育まれる生きる力
梅原猛の㎡じぇっせーじ
自然との共生、そして循環
近くの森の木で家をつくりたい
森に緑を、住まいに木を

60才を過ぎて木の家を建てて感じたこと


木の家だいすきの会では、建て主のご家族を招いて大黒柱の伐採見学を行っています。伐採した瞬間の杉の大木が倒れる映像は、「バリバリ」というツルの折れる音、倒れてバウンドする際の地響き、身体全体が感じる衝撃と一緒になって、脳裏に残っています。大切に使いたいという気持ちが自然に沸いてきます。

伐採後は必ず、伐採した木を背景に家族全員で記念写真を撮りますが、貴重なファミリーヒストリーになると思います。子供の頃のこうした体験は、強い印象となって記憶に留められるのではないでしょうか。
私が奥武蔵の森の木で家を建てたのは今から8年前。既に還暦を迎え子供たちは成人していました。私の子供たちにも、感受性の高いこの時期に伐採の体験をさせておきたかったといつも感じます。

伐採見学会 子供たちの好奇心は爆発 !

自然の中で育まれる生きる力

私が子供の頃住んでいた東京都郊外では、家の周りには畑や雑木林が多く残され、私たちの遊び場だった原っぱには、とかげ、トンボ、蛇などもごく普通に見られました。私の子供の頃は暮らしの中にごく普通に自然があり、宮崎駿氏が描く「トトロ」の世界が多く残されていました。今になって思い返すと、こうした自然との関わりの中で、生きることの実感や力を養うことができたのではないかと思います。

 翻って今の子供たちの環境を考えると、自然とふれあう機会は本当に少なくなっています。だからこそ、意識してそういう機会をつくることが大切になっています。近くの森の木を使った家づくりの意義もここにあります。自ら木の家に住み始めて、自然素材に直に触れることで、見た目だけでなく肌感覚として感じてもられることがあると実感するからです。

梅原猛のメッセージ

 私は60 才になるまで、まちづくりプランナーの仕事をしていました。これまでにニュータウン計画や団地計画、住宅地設計など多くの住宅プロジェクトに関わる機会を得ました。そうしたプロジェクトのなかで「自然との共生」は常に重要なテーマの一つでした。平地林や里山をつぶして開発した住宅地のなかに、緑を確保することに矛盾を感じつつ、人が如何に緑を求めているかを実感してきました。
 そんな中、20 年ほど前に一冊の本と出合いました。それは、「人類を救う道を探る 『森の文明、循環の思想』」というタイトルでした。哲学者の梅原猛氏と比較文明学者の伊東俊太郎氏が監修した研究をとりまとめたもので、地球環境問題を人類存在の根本に関わる歴史と文明の問題として位置づけ、差し迫った地球環境問題へアプローチしたものでした。

自然との共生、そして循環

その目指すところは、人間と自然の共存の可能性への道であり、未来の地球環境と文明の行方に対するグランドデザインを提示するところにありました。この研究書の冒頭で、梅原猛氏は、「世界に発展した4つの文明はすべて森のあるところで生まれて、そして栄え、そして森を切って亡んでいった」と警鐘をならしていました。「巨大な破壊力を近代文明は持っている。しかもその力はますます強くなっている。これが地球の生態系のバランスを狂わせる。それが今叫ばれている『地球環境の破壊』ということではないか」「この文明を克服するには、・・・もう一度、共生と循環という原理に人類は戻らなくてはならない。」と訴えていました。今にして思えば、「森の思想が人類を救う」、というメッセージは、私が「木の家だいすきの会」を立ち上げようと思い至った種火となり、20 年を経た今、その輝きを増しています。

近くの森の木で家をつくりたい

 「近くの森の木で家をつくりたい」という思いが高まり、設計者の中村展子さんと一緒に、木を手に入れるためにはどうしたらよいか、木材の産地めぐりを始めました。ある時怪訝な顔をされて、「木材がほしければ商社に聞いてみては」と言われました。1990年代の終わり頃は、まだ、ものあまり時代の入り口で生産者は「売ってやる」という意識が強く、消費者が流通に入り込む余地のない時代でした。二人で産地周りをしていてもらちが明かないので、賛同者を募って行動しようと決めました。
 

森に緑を、住まいに木を

埼玉県所沢市、川越市、三芳町にまたがる三富(さんとめ)の農家では、雑木林の落ち葉の堆肥で有機野菜をつくる循環型農法に取り組んでいます。毎年冬になると市民参加型の「落ち葉掃き」のイベントを続けているのですが、そのイベントに設計者が参加していたので、「この人たちなら、理解してもらえるかもしれない」と考えて呼びかけました。2001年11月、先行きはまったく不透明でつづけられるのかどうか、誰もわかってはいませんでしたが、「森に緑を、住まいに木を」をスローガンに第一歩を踏み出しました。


鈴木進
木の家だいすきの会代表理事

木の家だいすきの会は2000年に活動を開始したNPO法人。ニーズに合わせて専門的な設計士や工務店をマッチングし、木をはじめとする自然素材を活かした家づくりをコーディネートする。家づくりだけでなく、森林保全や林業に関するセミナーなどを行い、森の大切さを発信し続けている。
https://www.kinoie.org/







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