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袴を着て神社に行ったお話

プロローグ


最後に着物を着て神社へ行ったのいつだっけ?

ふとそんな疑問が湧いたのは、とある5月の日曜日、岡山に御座います「吉備津神社」へお参りに行った日の事でした。

その日私は「一人夜行バスで行く、0泊3日弾丸岡山神社参拝ツアー」決行中でして、
「とにかく動きやすい服装」をモットーに、
夜行バスとフィールドワーク、両方に負けない装備で固めておりました。

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ジーンズにスニーカー、リュックにはスケッチブックをぎつぎつ、ペットボトルもぎつぎつ
御朱印帳も入ってるし、アイマスクもお菓子も何ならメイク落としも歯ブラシも準備OK。
小生山にも登れますし、夜行バスでも3秒で爆睡も出来るであります!といった
長期の野戦を前提とした服装で旅行に前のめりに挑んでおりました。

朝の6時半に岡山駅にたどり着き、半分寝ている頭で、岡山駅から吉備線に乗り換え、最寄り駅でレンタル自転車をお借りし、やっとこたどり着いた吉備津神社、そこで私はお見掛けしてしまうのです。

袴を着てお参りに来ているアーティストさんに。

ちょっと想像してみて下さい。
静まり返った吉備津神社、そこまで多くはない参拝客、朝の少しぼやけた光の中、朝日を浴びて静かに息をしているご神殿。

先ほど岡山にたどり着いたぼさぼさジーンズ野郎の目の前を、それはそれは美しい黒い袴のアーティストさんが颯爽と横切っていくお姿を。

カ ッ コ よ す ぎ か よ!!

と直立不動の状態から真後ろに90度の角度でのけ反って、頭が地面に付きそうになっている私の横をお仕事中の巫女さんが歩いて参りました。

巫女さんをとっつかまえ、
何が起こっているんですか
なんでドローン飛んでいるんですか、
何の撮影しているんですか
というかあの方どなたなのですか?
と矢次に質問してみましたが
「実は私達も詳細は知らないんですよー。でも何かの撮影っぽいですよね」
とお答えして頂き、なるほどわかりました!「わかりません」がわかりました!
とその場はお開きになったので御座いました。

それからしばらくして撮影らしきものは終了し、アーティストさんは吉備津神社の長い回廊を静かに歩いて行かれました。

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あの回廊行かれた方はわかると思うのですが、あの回廊だけでも十分絵になりますのに
そこに袴姿の人物が加わるだけで、空間の粒の1つ1つまでもが変化しているように思えました。

先ほどまで90度の角度でのけ反っていたぼさぼさジーンズ野郎は、その後ろ姿をぼんやり見つめながら
「ああ袴と神社って本当に素晴らしいな」と思ったのでした。

パズルのピースが合うような、という表現が合っているかわからないのですが
「とてつもなく相性が良いもの同士」とでも言えば良いのでしょうか。
酒と泪と男と女みたいな。

憧れの後ろ姿を胸に、お話は進みます。
(ちなみにどなたかまだわからないままです…合掌)



袴の日

前回岡山の吉備津神社で「次回は袴を着て神社へ行こう!」を思い立った私は、
次の月の6月に奈良県 丹生川上神社へ参拝予定である事を思い出しました。

そうだ、袴着て いこう。

どこかで聞いた事のあるあの曲が聞こえるぜ…

丹生川上神社は私の人生で行かれるか、行かれないかというぐらい自分の住んでいる場所から遠い遠い神社であったのですが、たまたま行ける事になり、スケジュールを組んでいたのでした。



せっかくの超超超憧れの神社でありましたので、ちょっとだけ大きめの水彩画の作品を神様に見て頂きたく、水の神様を描かせて頂いた
キャンパスをお持ちする事に心に決めておりましたので、

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水の神様達

ですが
一人夜行バスで行く、0泊3日弾丸奈良神社参拝ツアー、よっしゃ袴も着て行こう、アンド 水彩作品も持ってちゃおう。

と活字にしてみますと
「よ、大将、今日は何だかてんこ盛りだねぇ!」というスケジュールになってしまったのでした。どうすんだべ。

さて、ここで1番の問題は袴。
いや、持っていないんですよ袴。

つか成人式だってレンタルでしたし、卒業式もレンタルでしたし、そんなナチュラルに家に袴ないです、という訳でレンタルにしてみましたが、これまた連絡がつきましたレンタル屋さんがご親切なお店で
「神社参拝で早朝?オッケーです!」と全面バックアップを快く引き受けて下さり
とりあえず「袴で神社行けそう」な状態までには整ったのでした。

大丈夫か私。

6月1日、早朝、JR奈良駅6時。
ぼさぼさジーンズ野郎は相も変わらず半分寝ておりましたが、本日は袴。

バスターミナルを抜けながらあれこれ考え過ぎてしまうと、「いや、普通にジーンズでよくね」とか言う自分が出てきてしまいそうでしたので、足早に予約したレンタル着物屋さんに向かいました。

レンタル着物屋さんでは、予めご用意して下さっていた袴の品ぞろえが素晴らしく
あっという間に「袴姿」が出来上がりました。

が、作品を小脇に抱えると、なんというかアーティストというよりは
「大学の卒業制作に作品が間に合わなくって、卒業式に慌てて作品持ってきた人」感が
滲み出ているような気がしないでもないですが、そこは置いておいて
集合場所である八木大和駅に向かったのでした。

到着した丹生川上神社は新緑の麗しき季節。
こりゃ真夏でも真冬でもきつかった…ラッキーですぞ…と思いながら
完成した絵を前に御祈願をさせて頂きました。

神社をそよそよと山の風が吹き抜けます。
一緒にゆらぐ袴の袖を見ながら、ああ、本当に袴って素敵だなあと
どこか他人事のように考える私。

お店が見繕って下さった袴の色は、着物が濃い水色で袴部分が紫のものでした。
着物部分の水色は日本の色で言うと「浅葱(花浅葱)」、少し緑がかかった華やかな水色です。

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丹生川上神社は奥深い奈良の山の中にいらっしゃる水の神様の神社でしたので、
このお色を拝見した時一瞬で恋に落ちたのでした。

袴の紫はお店のおすすめもありましたが、着物か袴のどちらかは
紫系統がいいなと行く前より考えておりました。

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神様の絵を描いている間、水の神様と火の神様の表裏一体の部分を考え
その中間色である紫をふんだんに使用しておりましたので
水色とムラサキの袴というのは、理想の具現化でもありました。

神社の色を着て参拝。

神様私今日どうですかね?いつもよりほんの少しだけ素敵じゃないですか?
今日は神様の事を考えて袴のお色を合わせてきたんですよ。
水の神様だとお伺いしていたので、水色のお着物選ばせて頂いたんですよ。

水彩の作品もお見せしに来たんですよ。気に入って頂けると嬉しいです。
ずっとアトリエにこもって描いてたんですけれど、
こうやって光の下に出してみると、見え方全然違いますね。

袴を着て背筋が伸びた私は、ご本殿の前で手を合わせながら
神様にちょこっとだけ自慢をしたのでした。                                   

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