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ブータン旅行記 第5章 犬

相変わらず汗(断じて油ではない)をかきながら、二人に励まされ、笑かされつつ、でこぼこの山道を登り続ける。
どこからやってきたのか、私たちの少し前を黒い犬が歩いていた。
犬も僧院に行くのだろうか。
この犬、ちょっと先を行っては止まって振り返り、こっちを見ている。
まるで私たちを案内してくれてるみたいだ。

1時間ほど歩いたところで、休憩ポイントである見晴らしのいいカフェテリアに着いた。
なかなかいいペースだとサンゲが褒めてくれる。
よ、よかったぁ・・・。
息を整えてとりあえずカフェの裏にあるトイレに行こうとすると、またさっきの黒い犬がこっちをちらちら見つつ先導してくれる。
おお、トイレまで案内してくれるのかい?なんて親切なんだ君は。
トイレから出ると、犬はドアのそばで体を丸くしていた。
私を見ると、のそりと起き上がってゆっくりとカフェの方に戻っていく。
ありがとうねー、と声をかけるが、もちろん返事はない。

カフェに戻るとお店の人がチャイとクラッカーを出してくれた。
甘いお茶が体中に染みわたる。
犬は、私たちから少し離れたところに座って、時々こちらの気配を気にしながら、のんびりとくつろいでいる様子だ。
不思議な犬。
言葉が通じたら、いろいろ話してみたいのにな。

ブータンには犬がたくさんいる。
お寺にも街中にも、本当にたくさんいる。
みんな野良だ。
昼間はだいたい道端に寝そべって、けだるそうにしている。
しかし夜になると一転して、けたたましい咆哮を響かせる。
夜中に犬たちのケンカを聞くことが何度もあった。
こっちの犬は夜型なのだ。
犬は誰の所有物でもなく、気ままにその辺を歩き回り、気ままに暮らしている。
なぜこんなに犬が多いのかと、あるブータン人に聞いたことがある。
直接その答えは聞けなかったが、ブータンでは、犬は来世で人間に生まれ変わると信じられているのだと教えてもらった。
だからやりたいようにやらせておくのだと。

仏教には六道という考え方がある。
この世界は天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道の6つに分かれていて、迷える魂はこのいずれかの世界で輪廻転生を繰り返すというものだ。
現世でどんな行いをしたかで、来世の行き先が決まる。
つまり、犬は今は畜生道にいて、次は人間道に生まれ変わるってことなのだろう。
輪廻転生を信じているから、ブータンの人々はむやみに生き物を殺さない。
仏教の観念は予想以上にこの国に根付いている気がした。
もちろん日本だって、意識していないだけで十分にそうなのだが。
 

もしかして、いつかの前世で会ったことある?


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