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ウェブストアスタッフが5月に読んだ本

こんにちは。ウェブストアスタッフのノラです。

5月もたくさん新刊が出ましたね。加えて、出版社さんからこれから出る本のプルーフ(発売前の見本版)をいただく機会があったり、日本推理作家協会賞などの受賞発表で気になる本が増えたり。
読みたい本はたくさんあるのに、時間が足りません…。積読をちょっとずつ消化している日々です。

さて、今回もミケとノラが読んだ本をご紹介していきます。


■ノラ・1冊目

あの「稲生物怪録」の絵本が発売される!しかも京極夏彦さんの文章と石黒亜矢子さんの絵で!と聞いて、すぐに予約した本です。
届いた本は思った以上に可愛くて、読む前からもう面白そうな気配が漂ってきます。

「稲生物怪録」は、もともとは江戸時代に生まれたお話で、現在の広島県三次市が舞台になっています。
主人公の稲生平太郎のもとには夜な夜な妖怪たちが訪れ、脅かそう怖がらせようとしてくるのですが、平太郎は一向に気にせず寝てしまう。涼しい顔の平太郎と、手を替え品を替え必死な妖怪たちとの対比が可笑しくて、ちょっと妖怪たちが気の毒になってしまいました。
石黒さんが描く妖怪たちはユーモラスで、気味が悪いようにも可愛いようにも見えるから不思議です。ページは片側が観音開きになっており、絵巻物や漫画のような躍動感も楽しめる絵本です。

「稲生物怪録」は様々な形で今に伝えられているのですが、角川ソフィア文庫の『稲生物怪録』には、「稲生物怪録絵巻」が全篇フルカラーで収録されているほか、平太郎目線で語られた「三次実録物語」も京極さんの現代語訳で掲載されている等、より深く知りたい方にはぴったり。ぜひ併せて読んでみてほしいと思います。


●ミケ・1冊目

今年2024年は没後100年(つい先日、6/3が彼の命日である)のメモリアルイヤーであることから、カフカの著作や関連書の刊行、イベントで盛り上がっている。ウェブストアでもフェアを開催中なので、見ていただけると幸いである。

私が読んできたカフカの著作は岩波文庫版が主であったのだが、この度新潮文庫で新しく短編集が出ると知り、カフカの紹介で有名な頭木弘樹さんの編であることからも興味を持って手に取った。

いくつか、そして何度か読んできたカフカの著作では、私は『父の気がかり』が一番好きな気がしている。「父」による「オドラデク」という謎の生き物についての思案を綴った掌編である。
この「オドラデク」は、星形のよくわからない存在なのである(ボルヘス著『幻獣辞典』にも載っている)が妙なかわいらしさも感じさせる。「オドラデク」とはきっとカフカの父親から見たカフカ自身の象徴なのではないかと思う。カフカと彼の父親との間には確執があり、カフカは晩年父親へ長文の手紙を書いていた。
私と私の父は、カフカと違って一般的で平和な親子関係である(と思う)が、私の父が私に対して思っていることはこの掌編の中で「オドラデク」に対して「父」が思っていることとなんだか近い気がして、それが妙に笑えるのだ。親と子は当たり前ではあるがまったく別の個であり、それゆえに親子といえども本当に分かり合うことはできない。親子に限らず人間同士は、別々の個をお互いなんとなく感じながら、なんとなく気にかけて生きてゆければ良い。そんな微妙で温度の低い愛情を感じ取れるところが、私がこの作品を好きな理由である。

『父の気がかり』以外では『流刑地にて』も好きな作品である。
いずれにせよ、カフカのユーモアな、ともすれば悪夢のような世界を少しずつ味わうことのできる、楽しい短編集である。カフカ入門として最適なのではないだろうか。


■ノラ・2冊目

体調が悪くて、仕事で疲れていて、落ち込んでいて。いろいろな事情で部屋を片付けられなかったり、食事をおろそかにしてしまったり。そして、基本的なことができない自分にさらに落ち込んで、悪循環に陥ったり。
読後に、そんな自分を許されたような気持ちになりました。そして、久々に「これが食べたい」「これを作りたい」という欲求が湧いてきました。

主人公は、弟を亡くしたばかりの野宮薫子と、弟の恋人だった小野寺せつな。ちょっと微妙な関係の2人の交流が物語の中心になっています。
薫子は、ふてぶてしくも見えるせつなの態度に反発を覚えつつも、次第にせつなを受け入れ、持ち前の根性と行動力でせつなの心も開いていきます。
一方のせつなは、家事代行サービス会社で料理担当として働いており、作中で出てくる料理は食べる人たちへの愛情に満ちています。薫子への塩対応とのギャップに、せつなへの興味が募ります。

著者の阿部暁子さんの作品としては、以前に『金環日蝕』を読んだことがあります。そちらは緊迫感のあるミステリーだったので、今回の題材は少し意外に思ったのですが、読んで納得しました。
きれいごとでは済まない現実を見つめる厳しい目と、登場人物たちの心の動きを繊細に描きだす優しいまなざしが印象的な作家さんだと思いました。

自分を気にかけてくれる人がいること、自分自身をいたわる時間を取れること、誰かのために行動できること。そういうちょっとした、でも貴重なことの積み重ねが日々の生活の癒しになり、これからを生きる力になる。
タイトルの「カフネ」の意味は、読んで確かめてみてください。


今回は3冊+αでご紹介させていただきました。

今月は更新が遅れてしまい、6月もすでに1週目が過ぎつつありますね…。申し訳ありません。
すでに読み始めている本もありますので、次回ご紹介できればと思っております。どうぞお楽しみに!