ウェブストアスタッフが7月に読んだ本
こんにちは、ウェブストアスタッフ・ミケです。毎日暑いと言うことすら億劫になるほど暑いですね……。
クーラーの効いた部屋で読書に没頭。暑い現実を忘れ、ひとときひんやりとした世界へ。今月もスタッフが読んだ本をご紹介いたします!
■ノラ・1冊目
7月は暑かったせいか、家で本を読んでいる時間がいつもより長かったように思います。ということで、ご紹介する冊数がいつもより多いです。どうかお付き合いいただければ!
まず1冊目はこちら。ずっと気になってはいたのですが、ちょうど文庫版が刊行されたので、この機会に読んでみました。結論から言うと、ものすごく面白かったです。
暴行事件で取り調べ中の男は、スズキタゴサクというふざけた名前を名乗り、刑事の質問をのらりくらりと躱すばかり。挙句の果てに、霊感で爆発を予言すると言い出す。その場しのぎの与太話かと思いきや、予言通りに爆発が起こり…スズキが爆弾犯なのか?そうだとして何がしたいのか?まさか本当に霊感ということはないよね?
冒頭から怒涛の展開で目が離せず、ほぼ1日で読み切りました。これほど一気に読んだ本は久しぶりです。
爆弾事件の真相はもちろん気になりますが、現代ならではのテーマが描かれているのもこの作品の魅力です。
多様な価値観を皆が発信できるようになったことは、より良い社会の実現への一歩だと思う一方、自分の価値観を揺すぶられる経験でもあります。確かだと思われたものが実は脆いと気づいた時の空恐ろしさ、それぞれの価値観を尊重することの難しさを感じます。
また、SNSでの情報拡散。「悪意を持って」だけでなく、「何となく」「よかれと思って」と拡散された情報も、誰かを傷付ける結果になるというのは日常的に起きていることですよね。
現代を生きる私たちのリアルな姿を見せつけ、想像力を与えてくれる作品だと思いました。
そしてこちらの作品、7月末にまさかの2巻目が発売されました!
1作目を読んだ方はお分かりいただけると思うのですが、正直なところ「続編なんてできるの?どうやって?」という感じでした…が!先にプルーフ版で読ませていただいたのですが、確かにしっかり「続編」でした!
2巻目の舞台は、スズキタゴサクの裁判が行われている法廷。前作以上に先の読めない展開で、どこに連れていかれるのかハラハラしました。お馴染みの面々も登場しますよ。
ぜひ併せて読んでみてください!
●ミケ・1冊目
私も、ずっと気にはなっていた本の文庫化……ということで手に取ってみたのがこちら『テスカトリポカ』。
なんだか口ずさみたくなるようなタイトル「テスカトリポカ」とは、アステカ神話における神の一柱の名前である。この神と生贄の儀式を通奏低音に、メキシコから日本・川崎を舞台に繰り広げられる悪夢の祝祭ーー。
まず、神に生贄の心臓を捧げる儀式と違法心臓売買ビジネスを繋げてひとつの物語にまとめ上げた著者の発想と手腕に脱帽である。全編を通して語られるアステカ神話の血の歴史と神事が、この作品に単なるクライムサスペンス・ノワール小説としてだけではない魅力をもたらしている。アステカ神話とキリスト教、侵略の歴史、血の記憶と神話の継承、赦し、信仰……。
非常に混沌としたブラックな内容でありながら、最後は突き抜けた青空のような、平和さと空虚さで以て幕引きとなる。この意外にも思えるハッピーエンド(と私は取った)具合が、私の好みと合致していた。
人間は暴力から逃れられるのか。宗教は時に人が暴力を奮う言い訳になり、時に人を暴力の波から救い上げる。神とはただそこに在るだけで、それをどう受け取るかはその人間次第である。
圧倒的な「黒」でありながら鮮やか。そんな印象を受ける読書体験であった。
※本書はグロテスク・暴力的な描写が多い。非常に読みやすいため個人的にはあまり気にならなかったが、苦手な方は避けたほうが無難だろう。
■ノラ・2冊目
次は、フェアの準備をしていて見つけた児童書。以前は『おばあちゃんはハーレーにのって』というタイトルで刊行されていた本の新装版です。
11歳のキャットは、俳優業で忙しい両親のもとを離れ、おばあちゃんと二人暮らし。このおばあちゃん、大学でも教えている精神科医でハーレーを乗りこなすという、とてもカッコいい人物です。友人たちのおばあちゃんとは違いすぎてちょっと恥ずかしい反面、おばあちゃんが大好きで誇りに思っているキャットの気持ちに共感してしまいます。
そんなある日、おばあちゃんの家を出て一緒に暮らそうと、両親から提案が!キャットはどんな選択をするのでしょうか。
家族のこと、クラスメイトや先生たちとの関係。悩ましいことの多い10代ですが、「自分のことは自分で決める。そのために自分で行動する。」という姿勢でキャットは立ち向かいます。そんな意志の強さも、おばあちゃんの姿を見て身につけたのかな、と思うと2人の絆にジーンとしてしまいます。
児童書ですが気づかされることも多く、大人にも読みごたえがあると思います。「プタって何?」と気になっただけの方も、ぜひ手に取ってみてください。
もちろん、お子さんの夏休みの読書感想文にもおすすめです!
●ミケ・2冊目
今私が一番推している、かもしれない作家・歌人である川野芽生さんの第二歌集。第一歌集『Lilith』でも感じた、川野さんの透明で鋭いきらめきを持った世界を、今作でも楽しめた。
『Lilith』で特に好きな短歌は上記だが、『星の嵌め殺し』で特に好きな短歌は下記だ。
川野さんの短歌からは、どこかひりひりとしたいたみ・怒りと言葉への敬意を感じる。世界をそうやって見る人がいること、また竜や星や鉱物たちといった私も大好きなものを、こうした言葉でかたちづくることができる人がいることを、私はとてもうれしく思う。
『星の嵌め殺し』刊行記念フェア「綺窓天涯」を、紀伊國屋書店ウェブストアと8店舗で開催中!
独占インタビューや川野さんの世界観をイメージしたオリジナル衣装を載せた特典ペーパー、スペシャルムービー、スタッフの感想文など盛りだくさんの企画なので、ぜひご覧いただきたい。
■ノラ・3冊目
小野不由美さんの作品では「十二国記」シリーズの大ファンなのですが、ホラーはあまり読めていません。というのも、何気なく読んでしまった『屍鬼』が怖すぎて、それ以来ホラーっぽいものに手を出せなくなってしまったから…
こちらも、「行者の祟り」「座敷童子」などの怖そうなワードが並んでいるので躊躇したのですが、「小野不由美の隠れた名作」というコピーに負けて読んでみました。
夏休み、親戚の集まりで本家に来た子どもたち。古くて広いお屋敷をちょっと怖く感じながらも、子ども同士仲良く遊んでいたのですが…
怪談でよくありますよね。真っ暗な部屋の四隅に4人が立って、順番に肩をたたいてまわると、いつの間にか1人増えているというお話。
親戚のお兄ちゃんから聞いたそのお話の通りにやってみると、どうにも1人増えたとしか思えない状況に。でも、誰が増えたのか誰にも分からない。
そんな不気味な始まりですが、もともとが子ども向けのレーベルの作品ということもあるのか、意外にも後味は爽やかでした。子どもたちが知恵を絞り、力を合わせて数々の怪異や事件に立ち向かっていくのは痛快です。怖いのが苦手な方でも、比較的読みやすいのではないかと思いました。
個人的には、親戚の家でいとこたちと過ごした夏休みを思い出せたのが嬉しいです。おばあちゃんがスイカを切ってくれて、競って食べたこと。お盆にみんなで花火をしたこと。同じ部屋で寝ようと布団を敷いてもらったものの、はしゃぎすぎてなかなか寝付けなかったこと…。夏に読むのにはぴったりの1冊だと思います!
いかがでしたでしょうか。
楽しい読書時間で、暑い夏の残りを乗り切りましょう!