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「1人当直して考えた、医療のひっ迫って何だ?」

TONOZUKAです。



1人当直して考えた、医療のひっ迫って何だ?

以下引用

熊本県も1月21日から「まん延防止等重点措置」が適用された。

 1月19日時点での、熊本県の確保病床の使用率は39.9%、重症病床の使用率は0.0%。ただ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応している医療機関からは「医療がひっ迫している」という悲鳴が上がっていた。一方で、対応していない、もしくは現場を知らない医療関係者からは「まだ余裕がある」という正反対の意見が聞かれている。いずれにしても、再びまん延防止等重点措置が適用された以上、医療界は、オミクロン株に負けたと言えるだろう。

 それにしてもなぜ、医療のひっ迫具合について、正反対の意見が聞こえてくるのか──。1月19日、東病院の夜間当直に入った私自身の経験から、その理由を明らかにしたいと思う。

 当日、夜間救急対応に当たるのは、医師が1人(私)、看護師1人、救急救命士1人、夜間事務1人の計4人。一般の民間病院では、ほぼこんなものだろうと思われる。その日の夜間帯の救急車受け入れ要請は6件。その日の病棟には1床しか空きがなかった。

 18時45分、1例目の救急車の受け入れ要請が来た。ふらつきが主訴の患者さんの救急搬入依頼。血圧が180mmHg以上あり、高血圧緊急症の患者さんだ。自宅でふらつきがひどくなり、かかりつけ医に処方された降圧薬を内服したものの血圧が低下せず、救急車を要請したとのこと。かかりつけの診療所は既に診療時間が終わっていた。患者さんの自宅は、熊本市中心街と東病院の中間辺りだという。近くの循環器専門病院は「処置中で対処できない」とのことで、東病院に搬入された。

 経過は、血圧をコントロールして症状が改善したので1泊の経過観察入院となった。翌日、かかりつけ医に紹介状を書き、無事退院となった。この患者さんの救急搬送時間は26分。自宅から東病院までは車で5分ほどの距離なのだが、2件の病院から搬入を断られたため、26分を要したという。

 20時53分、2例目の救急車の受け入れ要請が入った。めまい・嘔吐を主訴とする患者さんの救急搬入依頼だ。昨日夜から症状が出現したものの、症状が改善せず救急車を要請したようだ。近くの病院は満床で断られ、東病院に搬入となった。

 搬入後、制吐薬の点滴を行い、症状が軽減したため帰宅できた。この患者さんは熊本地震で被害の大きかった地域から搬送された。救急搬送時間は27分。途中には、熊本市民病院があるが、同病院は感染症指定医療機関になっており、患者の受け入れ制限をしている。そのため、距離的には遠い東病院に搬入となった。

 21時19分、3例目の救急車の受け入れ要請だ。転倒後の腰痛を主訴とした患者さんの救急搬入の依頼だった。数日前、台所にて後方に転倒し、徐々に腰痛が出現。体動困難となり、救急車を要請した。かかりつけの病院は満床だったため、受け入れ拒否となり、その後、2カ所の病院に断られて東病院に搬入された。

 この方は熊本県中央部から搬送された。搬送時間は54分。熊本市内から1時間半ほどで行ける自然豊かな地域である。周辺にも民間病院はあるが、救急指定病院は少なく、距離的にも時間的にも遠い東病院に搬入となった。患者さんには圧迫骨折があり、現在も入院治療中である。
 そして、この患者さんを受け入れた時点で、当院もオーバーベッドとなった。

 21時36分、4例目の救急車の受け入れ要請が来た。嘔吐を主訴とする患者さんの救急搬入依頼だ。この患者さんは、熊本市の基幹病院に勤務する看護師で、COVID-19患者との濃厚接触者であった。どうにか受け入れてあげたかったが、既にオーバーベッドの状態で、さらに濃厚接触者ということで、隔離できるベッドも無く、救急隊には勤務する基幹病院へ連絡するようにお願いして断った。

 翌1時56分、5例目の救急車の受け入れ要請があった。交通事故により、右大腿部痛を主訴とする患者さんの救急搬入の依頼だった。交通事故は、熊本市の中心街で起きたという。自家用車でも15分、救急車なら5分で着く距離である。しかし、搬送時間は約1時間に上った。

 なぜ搬送に、1時間もかかったのか。それは、東病院の前に6件の病院から搬入を断られたからである。経過はレントゲン上骨折もなく、痛み止めを処方して帰宅してもらった。

 朝方7時10分、6例目の救急車の受け入れ要請が来た。頻回嘔吐と少量吐血を主訴とする患者さんの救急搬入依頼だ。朝4時から6回の嘔吐があり、最後は出血が混じっていたとのこと。自宅は東病院の近くで、搬送時間は10分であった。上部内視鏡を勧めたが、拒否されて点滴にて症状改善後、帰宅となった。

 さて、これが救急指定病院になっている、熊本の小さな民間病院での現在の救急医療の現実である。個人情報の観点から年齢や性別はあえて書かなかった。現在も、オミクロン新規感染者は全国規模で増加中である。日を追うごとに全国の救急医療は悪化するであろう。

 問題は、この状態を「医療のひっ迫」と捉えるかどうか──。確かに、感染症指定医療機関が受け入れ制限をしている影響で救急車がこちらに回ってきたとか、オーバーベッドの状態で濃厚接触者を受け入れられなかったとか、そういう点を捉えて「医療がひっ迫している」と言うこともできる。が、数件の病院から救急搬送を断られたとか、オーバーベッドで入院になりそうな患者さんを受け入れられないことは、コロナ禍でなくても起きているわけで、そういう意味で「医療はひっ迫していない」とも言える。定義が明確でない限り、「医療のひっ迫」とは、きわめて主観的かつ感覚的なものだ。

 1月23日時点で、熊本市の病床使用率60%を超え、同市は1月24日に「医療非常事態宣言」を出した。いずれにしても、今年55歳を迎える、まだまだ若い自分でも、朝9時からの外来診療はさすがに辛かった。私の体自体はひっ迫していたことは間違いない。






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