食事の記憶

元彼は、私の行きたい場所、食べたいものなどに、基本的に全て付き合ってくれる人だった。食事への執着が強い一方で、何でも美味しく食べる人だった。色んなものを一緒に食べたし、私は、色々な料理を作ることが好きだった。

そんな彼と別れてから、外食はもとより、自炊や食事を楽しんだ記憶がほとんどない。生活スタイルが変わったことも大きいが、無意識が、思い出をなぞるような行動を避けていたのやろうと思う。何年もかけて積み重ねてきた一回一回の食事の時間の楽しかった記憶を思うと、今でも胸がチクリと痛む。

別れる半年くらい前から、美味しい料理を作ってくれた後にも、彼は彼のタイミングで突然キレるようになった。悲しかった。私の波動が自分のそれとは合わないと言って、身体を震わせるようになった。
私は自分を責めた。そうして眠れなくなり、生理が狂いはじめ、私は自分がカサンドラ症候群と呼ばれる状態になっていたことに気がついて、それでも一緒にいようとして、最後は彼が別れを決めた。

嫌いには、なれなかった。
さよならも、自分からは言えなかった。

今、私は私に、お弁当を作ってあげたい気分になっている。実際には今の自分はお弁当が必要なライフスタイルではないし、余裕もないのだが、なんだか無性に、私は私に、お弁当を持たせたい気分なのだ。

昼に必要ないのなら、夜に弁当詰めたって、誰も何とも思わない。

元彼は、一緒にごはんを美味しく食べれる人が恋人の絶対条件だと言っていた。
私にとっての恋人の絶対条件は、どんなときも私を大切にしてくれる人である。

まずは私自身が、どんなときも私を大切にしてやらねばならぬと気付かせてくれたのは、この別れのおかげだと思うのは人が良すぎるやろうか。

楽しかった思い出は冥土の土産用の引き出しにそっとしまって、そろそろ私は私のために、ご飯を作って食べようと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?