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初めてのワンルーム

東急大井町線のとある駅の近くに家を借りた。大学一年の終わりだった。寮を出て新築マンションの一階のワンルームへ、四階には大家さん一家が住んでいた。

初めてのワンルーム。玄関のドアを開けるとすぐに部屋。けっこう広い。キッチンとユニットバス。良い、すごく気に入った。

机とベッドが無かった。無かったというより買わなかったという方が正しいか。イコール鍵のかかる箱がなかった。銀行通帳と印鑑をどこに収めておけばいいのか途方に暮れる。万が一、泥棒が入っても絶対に見つけられない場所は、ハテ?

敷布団の合間

そうだ押し入れに使わないふとんがあるから、その折った隙間に挟んでおくことにした。自信あり。

ピンポーン

新聞屋さんだった。新聞を勧められた。お金が無いので新聞は要りません、と断ると洗剤を置いていくから考えといてくれと去っていった新聞屋さん。しまった、洗剤受け取ってしまった。

ピンポーン

また来たのか、しつこいなあと思いながらドアを開けた。ああ無理矢理、新聞を契約させられた、三か月。怖い怖い新聞屋さん。三か月後再契約の時は居留守をして絶対に出なかった。「居るのは分かってるんだぞ、この野郎」ドンドンドンドンとドアを叩かれた。そのせいで一日家を出られなかった日もあった。

何人も家に泊めたことがある。みんな口を揃えて言った。「足の踏み場がないんだけど、どこに寝るんだよ」大学の教材やコピー、スポーツ新聞が散らかっていたものだから、グアっと片付けたが窮屈だった筈だ。ベッドも無かったし。みんな急に来るんだもの、しようがない。いや申し訳なかった。

さて、夏休み。実家に帰ることにした、一週間経ち帰宅。

やっぱり実家は居心地よかったな。

なんて感傷に浸りながら再び一人暮らしのワンルームに帰ってきたわけだ。床に直接置いてあった14インチのテレビをスイッチオン。ベランダの窓を開けて空気の入れ換えをしようとした時だ。

窓ガラスが割れてる

鍵のところのまわり、そこのガラスがバリっと破られていて鍵も開いていた。

マジ?空き巣か?ハテどうしよう?

何か盗まれたかと不安になった。

通帳と印鑑は!

急いで押し入れの敷布団の合間に手を入れた。

あった

まずは安心。その他何か貴重なものは。

エロ本は!

厳選されたわずか数冊、全くもって無事であった。

ガラスが割れてしまったので大家さんに謝りに行き、その後警察官がやってきて現場検証となった。

鍵の周りだけ、うまいことガラス割ってますね、これはプロの仕業です。

なるほど、と大家さん。

部屋が荒らされていますが、何か盗まれた物はありますか?
いや、特にありません、多分。
帰宅時に玄関のドアの鍵は空いていましたか?
いや、閉まっていたと思います。

いくつかの質問の後、私は思い切って言った。

す、すみません、あのこの部屋、とても荒れていますが、いつもこんな感じです…。

警察官と大家さんの眼が光る。

犯人の空き巣は、おそらくですが、鍵を開けてから部屋の中を見て、すぐに立ち去った可能性が高いですね。玄関の鍵が閉まっていたことからも、その可能性は高いです。

警察官が帰りがけに私に言った。

こんなに汚くしてたら大家さんに迷惑だよ、ちゃんと日々片付けするように。

はあ〜、ごもっともでございます。

大家さんはとても優しくて、すぐに窓の外のベランダにセンサー式の防犯ランプを何箇所かにつけてくれた。

その後、一年半くらいお世話になったが、なるべくマメに掃除し整理整頓をするようにした。せっかくの新築だったのだから、きれいに使わなかった今までが申し訳ないことをしていたのだ。出る時にはキッチンもユニットバスもピカピカにした。

二年間、お世話になりました。
さっきお部屋見ましたけど、きれいでしたよ。

田舎から上京した2年目と3年目を支えてくれたあの部屋と大家さんには感謝の気持ちでいっぱいだ。

くそお世話になりました。ありがとう!



いつもありがとうございます。書きたいこと徒然なるままに書きます。