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読書紹介46 「魔術はささやく」

あらすじ

それぞれは社会面のありふれた記事だった。一人めはマンションの屋上から飛び降りた。二人めは地下鉄に飛び込んだ。そして三人めはタクシーの前に、何人たりとも相互関連など想像し得べくもなく仕組まれた三つの死。さらに魔の手は四人めに伸びていた・・・・。だが、逮捕されたタクシー運転手の甥、守は知らず知らず事件の真相に迫っていくのだった。日本推理サスペンス大賞受賞作。

感想など

今から30年以上前の作品。

当然、スマホやインターネットがない時代の中での話。

主人公たちがいろいろと調べるのに、新聞記事、雑誌記事、現代用語辞典、手紙でやりとり、固定電話、実際に会いに行って・・・等々、体を動かして、手元で得られない情報を求めて移動するところに、おもしろさを感じました。

また、その分、話の中では時間が結構経過しているのに、読んでいる自分の中では、事件やその捜査内容がパズルの最後の方のピースのように、ダダダとつながっていって、臨場感や緊迫感があり、あっという間に読み終えられました。

今回の「魔術」「サブリミナル(効果)」など、ちょっと現実世界ではありえないようなことでしたが、フィクションと感じさせない、むしろ、本当に、実際に起こっているのではないか、起こせるのではないかと思えるほどの現実感がありました。

登場人物の言動が、よくある推理小説の人物のような、ある程度、型にはまったような言動ではなく、その人の生い立ちから含めてどんな人なのか、次に何をするのか、何が起こるのか?といったような予測がつかない分、読み進めるごとにだんだんと明かされ、全体像が見えてくるという意味でのスリリングさも感じました。

犯人捜しや3人の死の関連、「魔術」の謎解きがメインの作品であると思って読んでいましたが、むしろ、最後の最後で設定された主人公の守の「葛藤」と、その後の選択が、話の一番の盛り上がり部分であると感じました

逆に言うと、なぞ解きミステリーと思わせつつ、その時どうするのか!と言う選択の重みに直面させる物語の構成をつくっていく、宮部みゆきさんのすごさを感じました。

宮部みゆきさんは、社会、人間の本質にかかわる描写、言葉を書かれるところも魅力があります。

・平明で客観的な報道記事からは、ある事件・事故の関係者もしくは現場に居合わせた人っ体の受けた衝撃のすべてをうかがい知ることはできない。読者はそこで何が起こったのかを知ることはできても、そこに何が起こったのかをしることはできない。

・死にかけている人が嘘をつくはずがないと思いますもんね。

・お前の親父さんは悪い人ではなかった。ただ、弱かったんだ。悲しいくらいに弱かった。その弱さは誰のなかにもある。お前のなかにもある。そしてお前が、自分のなかにあるその弱さに気が付いた時、ああ、親父と同じだと思うだろう。ひょっとしたら、親が親なんだから仕方ないとおもうこともあるかもしれない。世間の連中が無責任に「血は争えない」なんて言うようにな。じいちゃんが怖いのはそれだ。
・じいちゃんが思うに、人間ってやつは二種類あってな。一つは、できることでも、そうしたくないと思ったらしない人間。もう一つは、できないことでも、したいと思ったらなんとしてでもやりとげてしまう人間。どっちがよくて、どっちが悪いとはきめられない。悪いのは、自分の意思でやったりやらなかったりしたことだ。言い訳を見つける事だ。」

・あるときふと、あたしはただ、儲けた金を使い切ってしまいたいがためだけに、気がふれたようにあちこち飛び回っているのではないか、と思った。だから、どこかを通った、一度は足を下ろしたということだけしか残らなくても、心が満足してしまうのだ。そして、また、次の金を稼ぐためにこの都会に戻ってくる。

・いつの世にも真の悪人というものが確かに存在するということだ。
しかし、幸いなことに彼らは絶対数が少ない。彼らだけでできることなどたかが知れている。本当の問題は。その彼らについていく者たちなのだよ。

著書情報
「魔術はささやく」 宮部みゆき
発行所   新潮社
発行年月日 平成5年1月25日

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