感想
平成4年に刊行された作品。
ある意味、1980年代からバブル崩壊までの経済や世相を、事件の犯人を追うというなぞ解きやスリリングな展開の物語としてまとめ上げられている作品です。
多重債務、ローン地獄に陥って、人生の落とし穴にはまる人。
そして、そんな自分の過去を消して、誰かになり替わろうとした人の悲哀が物語られています。
ローン地獄に陥る人たちを批判、自己責任論で断罪するのは簡単です。
しかし、世の中は、便利なものを導入し、物を売るために、常に光の部分だけを喧伝し、広めることに力を入れ、その影の部分や落とし穴への警鐘や対策を「光」の部分以上に行うことはありません。
現在でも、クレジットカード以外に、学校での「一人1台タブレット」、「マイナンバーカード、」「生成AIの導入」などなど、影の部分による危うさを感じるものが多くありますが、一度導入されれば、「使うのが当たり前」で、その落とし穴については「自己責任」で対処してくれと言わんばかりです。
そして、それで経済や社会が「回って」いき、つまずいた人に対して、自己責任論で見て見ぬふりをするとしたら、こんな歪んだ社会や「成長」もないと思います。
「火車」は30年前の作品で、当時のクレジットと言う便利なものが世の中に広まった時に、それを使う人々に何が起こったか、どんな危うさがあったのかを描いています。
よく日本経済について「失われた〇年」と言われ、「バブルよ、もう一度」的なことが語られることがあります。
しかし、本当にバブルの時代がよかったのでしょうか?
現在でも、「景気回復の実感がない」と言われますが、バブル時の経済成長時でも、世論調査では多くの人が同じこと~「円高で生活不安 ジワリ」「好景気の実感がない」~と新聞に記録されています。
また、投資歴70年。1980年代を含め、現在まで投資をし続けている藤本茂さんは、バブルのころの日本より、むしろ、今の日本の実体経済の方が本物でまとも、これから上がっていくとの見方も示しています。
ある意味、バブル時が異常だった、見せかけの成長だったともいえます。
お金のことを無視して現代社会を生きることはほぼできませんが、お金さえあれば幸せになれるわけではないことを、もう一度考え直しておきたいとも思えた作品でした。
心に残る言葉もたくさんありました。
皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです