読書紹介66「鍵」~事件と結びつけるいアイテムであり、兄妹の心の扉を開くもの
➀あらすじ・概要
ミステリー作品と言われれば、そうだなと思えますが、むしろ、事件を通じて互いの葛藤や確執を乗り越える家族の物語、ちょっぴり友情の物語という気がしました。
実際、作者の乃南アサさんは、
「作品が目に触れるようになったときにいろいろな括りが付けられるのであって、自分ではミステリーを書いているという意識はない。私は『人間』を書いていきたい」
と授賞式の記者会見で語りました。
事件が起き、そのなぞ解きや解決するまでが描かれていますが、聴覚障害をもつ麻里子を中心に、そのまわりの兄姉との心の動きが詳しく、丁寧に語られていました。まさに、「人間を書いて」いるなあと思いました。
②感想・考察
物語とはいえ、兄の俊太郎に対して「妹に対して冷たくしすぎでしょ」とか、姉の秀子さん、まだ若いのに、しっかりしすぎ!とか、いろいろとツッコミを入れながら読んでいました。
また、30年前(1992年)ほどの作品なので、ポケベルや公衆電話でのやりとりシーンが出てきて、現代との違いに、「歴史」を感じました。
すぐに連絡がつかないからこそ、互いに相手の事を慮ったり、今ごろ何をしているのかと想像を巡らせたり、連絡がすぐにつかなくてやきもきしたりと、相手に対する心の距離はぐっと近くなりやすいのかもしれないなと思いました。
いつ会えるか、連絡がつくか分からないから、出会っている時間をものすごく大事にする感覚があるのかもしれません。
題名の「鍵」は、事件のきっかけになる品物であり、また、犯人と三兄弟とを結びつけるアイテムでありました。
また、読み進めるうちに、兄(姉)、妹の互いに閉ざした心を開く「鍵」でもあると読めてきました。
乃南アサさんは、「著者のことば」で次のようなことも述べています。
世の中に、同じ条件を兼ね備えた人と言うのはいません。性格もそれぞれ、生まれも育ちもそれぞれです。たとえ家族であっても、個人はやはり異なる条件の中で生きています。大切なのは、与えられた条件の中で最大限に輝くこと。そして、自分と異なる条件のもとに生きている人を恐れず、拒絶せず。ともに受け入れることだと思います。ハンディ・キャップさえ最大の
個性として受け入れ、みずみずしく生きている人は大勢います。
作品の登場人物がオーバーラップしつつも、障害に限らず、現代の私達にも通じる言葉だなあと思いました。
まだ、読んでいませんが、この話の続編として「窓」があるそうです。同じ家族が、またもや事件に巻き込まれる話だそうです。
一体、どんな解決を見るのか、家族それぞれがどう成長しているのか?一度読んでみたいと思います。
皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです。