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読書紹介⑩「パレートの誤算」

あらすじ

ベテランケースワーカーの山川が殺された。新人職員の牧野聡美は彼のあとを継ぎ、生活保護受給世帯を訪問し支援を行うことに。仕事熱心で人望も厚い山川だったが、訪問先のアパートが燃え、焼け跡から撲殺死体で発見されていた。聡美は、受給者を訪ねるうちに山川がヤクザと不適切な関係を持っていた可能性に気づくが・・・・。生活保護の闇に迫る、渾身の社会はミステリー!

犯人あても含めたミステリーでしたが、それ以上に、生活保護の闇や社会福祉の現状について知って、考えさせられる本でした。

健康保険証がどうやってできているのか、成り立っているのかや年金の仕組みなど、全く知らずに、ただ、家族に言われるがままとか、そういう年齢になったからと言うことで、ただなんとなく、お金をおさめたり、制度をつかったりしていました。
生活保護についても同じで、どんな制度か知らないのに、ただマスコミなどで騒がれたからなどの理由で、「冷たい視線」を送っていた気がしました。本当に必要としている人も多数いるのに・・・。

作中にも出てきた「パレートの法則」は次の通りです。

イタリアの経済学者が発見した統計モデル。
経済において、全体の数値の大部分は、全体を構成するうちの一部の要素が生み出しているとしたもの。80:20の法則とも言われる。
例えば、成績上位の2割の社員によって、企業の利益の8割が生み出されるなど。

似た法則で有名なのが「働きありの法則」で内容は次の通りです。

よく働くアリが2割、普通に働くアリが6割、働かないアリが2割に分かれるという理論。人間社会のあらゆる場面でも見られる。 
ただし、働いている蟻だけを集めると、その中の一部がさぼり始める。
また、さぼっている蟻だけを集めると、その中の一部が働きだすことも分かっている。

本の中では、この法則を「悪く」解釈して、「優秀な?2割以外は不必要」「役に立たない」という拙速な考えから、社会的弱者の切り捨てを主張されている部分がありました。
法則を見つけたパレート自身は、2割以外が無価値だ、だめだとは言っていなくて、もし、そのような解釈がなされるのであれば、それこそ、タイトルの通り「誤算」といえる気がします。
そのような法則や理論で割り切れない部分があるのが人間だからです。

実際、「働きアリの法則」に関連して、一見、さぼっているように見えるアリの存在が、コロニーの存続に大きな役割を果たしているとも考えられています。働きアリばかりになると、疲れて働かなくなった時に、仕事が進まなくて非効率。コロニーが滅びてしまいます。働かないアリ(別の機会、時間に働く)のおかげで、全体として長続きしています。同様に、社会的弱者とは言われますが、「その人がいるおかげで!!」という面もあります。そこを忘れてはいけないなと考えさせられました。

他に、「社会や人間に関する言葉」で、次の内容が印象に残りました。

・不安や悩みのはけ口は、弱いものに向かいがちだ。
・明日、どうやって生きていくかで精いっぱいな人間ばかりだ。他人のことを真剣に考える余裕はないのだろう。
・ノイローゼになるほど嫌な仕事を生きていくために仕方なく続けている人間もいる。
・世の中には、己のだらしなさや弱さから結果的に行政の世話になっている者もいる。
・生活保護受給者すべてを擁護するわけではないが、受給者ひとりひとりの背景に目を向けず、ひと括りにして、米に集まる虫なの、ただ喰いだの言い切る考えには同意できない。

いろんな制限の中で、日夜、本当に相手の為になることを考えて実行している職業人が世の中にたくさんいることを想像して、勇気をもらえる本ででもありました。

「パレートの誤算」
柚月裕子 著
発行者   祥伝社文庫
発行年月日 平成29年4月30日
値段    730円(税別)
*作者の柚月さんは、最近テレビドラマで放送していた「合理的にあり得ない 上水流涼子の解明」の作者であり、また、映画で話題になった「孤狼の血」も書いている小説家です。 

皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです。

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