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「痛い」2話~短編ホラー小説~

「痛い」 ②

それから数日置きに同じ悪夢を見るようになった。この原因不明の痛みに襲われる以前はほとんど夢すら見る事がなかった為余計に気味が悪い。

(痛みのストレスのせいでこんなに変な夢を見るようになったのかな…)

その時の私はそう思っていた。
 
そんな日々が続いたある日の深夜、ふと目を覚ました私は酷く喉が渇いていた。

(お水が飲みたいな。)

そして起き上がろうとしたその時、

(あれ…体が動かない!どうしよう!)

恐怖と焦りが一気に襲ってくる。別室で寝ている母に助けを求めようとして更に驚愕した。声が出ない。中学生の私にとっては初めての経験で、これが金縛りであるという事に気付くのに時間がかかってしまった。そして金縛りだと気付くと余計に怖くて泣きたくなった。

(焦っちゃだめだ。落ち着いて目を閉じていればきっと大丈夫。)

心の中で自分に言い聞かせ呼吸を整えようとするが一向に恐怖心は消えない。そんな私に更に追い打ちをかけるように、枕元で人の気配がした。

(あぁ、ホラー映画で観た事がある…絶対に目を開けちゃいけないやつだ!)

頭ではわかっているのにどうしても目が閉じてくれない。せめて足元の方へ視線を向けたまま時間が過ぎ去るのを待つしかないのか。頭上ではまだ人の気配がする。心がざわつく。

(絶対に上は見ちゃだめだ!このまま足元を見ていればきっと…)

と、その時。足元の方を捉えていたはずの私の視界に天井が映った。もう自分の意志ではどうにも出来ないのか。しかし恐怖のあまり必死に抵抗した刹那、頭上から私を見下ろす兵隊さんが視界に入ってきた。はっきりと見える。何度も夢で見たあの兵隊さんだ。顔も首も手も焼け焦げて真っ黒で、白目だけが白いまま私をじっと見下ろしている。怖い…とにかく怖い…逃げなければ…そう思うのに体が言うことを聞かない。逃げたい。焦る。泣きたい。叫びたい。お願いだからもうやめて!
 
と、次の瞬間、それまでじっとしていた兵隊さんの手が動いたかと思うとそのまま私の脇の下に手を入れ、私を上に上に引っ張ろうとするではないか。私には引っ張られている感覚もある。

(だめだ!このままじゃ連れて行かれてしまう!)

恐怖心が最高潮に達した。
 
 
ふと気が付くと朝だった。大量の汗をかいている。気持ちが悪くて起き上がろうとするが体が重たい。それでも力を振り絞り起き上がりながら、寝ぼけた頭で何があったのかを思い出した。そうだ、私は昨夜兵隊さんを見たのだ。脇の下に引っ張られる感覚が残っている。またあの恐怖が蘇ってきて背中に一滴の汗が流れた。
なんとなく周囲の景色がいつもと違って見えた。寝ていた布団の周りをきょろきょろと見渡して私は驚愕した。
いつも寝ている位置より上に体が移動していた。 

私は部屋から飛び出し母の元へ向かい、昨夜何が起こったのかを話した。今すぐ話さなければ恐怖でどうにかなりそうだった。
すると話を聞いていた母の顔色が見る見るうちに青ざめて、

「お母さんもその兵隊さん、見た事があるわ…」

母の口から思いもよらぬ言葉が出てきた。

「え?・・・今なんて・・・?」

母は一呼吸置き、なんとか落ち着いて詳しく話をしてくれた。

「お母さんも子供の頃、楓が見たのと同じ兵隊さんの霊を見てるのよ。金縛りにはあっていないけど…家の中で見たわ。間違いない。」

何も言葉が出てこず瞬きを繰り返すことしか出来ない私を置いて母は話を続ける。

「ここはお母さんの実家でしょう?ほら、お母さんとお父さんが離婚してこの家に楓を連れて帰ったから。同じ家で同じモノを見たとなると…地縛霊みたいなものなのかしら…」

私は話についていくのに必死だった。いや、母の言っている事は頭ではわかる。ただ理解するのに時間がかかる。

「地縛霊って土地とかに憑いてる幽霊の事だよね?それってどうすればいいの?」

私は頑張って息を整えながら母に問う。

「お祓いをしてもらった方がいいのかしら。そうだ、お母さんの伯父がこの家を建てた時の事に詳しいかもしれないわ。ほら、楓のお祖父ちゃんのお兄さんで昔よく遊んでもらったでしょう?覚えてる?」

「もちろん覚えてるよ。」

「まずは、昔ここが何の土地だったのか伯父に聞いてみましょうか。」

私は賛成した。しかし昨夜あの現実とは到底思えない程の経験をしたのは私だ。それならば自分の耳で聞きたいと思った。

「それじゃあ私が今度聞きに行ってみる。家も近所だし道も覚えてるよ。それに久しぶりに会いたいし。」

母とそんな話をしていると、ふと私は体の異変に気付いた。そういえば今朝起きた時から体の痛みが消えている。その事を母に伝えると、

「うーん…もしかしたら兵隊さんのお陰なのかしら…案外悪い霊じゃないのかもよ?」

母からそんな風に言われると本当にそんな気がしてくるから不思議だ。私の気持ちも段々と落ち着いてきた。
母はそんな私の様子を見て嬉しそうだ。

「そうそう、そういえばお母さんも子供の頃に病気になった事があってね。腎臓が悪いなんて言われて入院したんだけど、結局お医者さんが間違えてたのよ。楓と同じ原因不明だったわ。」

始めて聞く話に私は驚いてしまった。まだまだ子供の私にとって母はいつも元気で何でも出来る、言わばスーパーウーマンだと思っていた。母だって人間なのだから病気になるのも当たり前、という事をつい忘れてしまう。

「それでその病気はどうなったの?」

「それがいつの間にか治ったのよ。今の楓と同じように。今まで忘れてたんだけど、楓を見てたら思い出したわ。」

「そっか、治ったなら良かった。それも兵隊さんのお陰だったりして。」

ほんの数十分前までの恐怖はどこかへ行き今は母が元気で良かった、私の痛みも消えて良かったと心から思った。その時は・・・


つづく


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