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「痛い」最終話~短編ホラー小説~

「痛い」 ③ 最終話-輪廻-

それから数日後、母の伯父さんの家を訪ねた。

「おお、よく来たの。こんなに大きくなって。病気になったと聞いたぞ、もう大丈夫なのか?」

私の継続した体の痛みの事だ。

「体はもう大丈夫だよ。今日はおじいちゃんに聞きたい事があって来たんだ。」

居間に上がらせてもらい少しの世間話の後、私は肝心な事を聞いてみる。色々と詮索されると面倒なので学校の宿題に必要で…とかなんとか適当な嘘を吐いた。

「楓ちゃんの家が建つ前の土地の話か。うん、よく覚えておるぞ。」

私はおじいちゃんが当時の事を覚えていてくれた事に安堵し話の続きを待つ。

「戦争の話は小学校で習ったか?そうか習ったんじゃな。わしは若い時分肺を患っておってなぁ。戦地には行かせてもらえずここから一山も二山も向こうの地で療養しておった。おかしなもんでなぁ、戦地に行けない事が悔しゅうて悔しゅうて仕方なかった。今になって思えば、お陰でこんなに長生きしとる。」

お祖父ちゃんは目を細め、まるで遠くの景色を見ながら話をしているようだ。当時の事を思い出しているのだろう。

「肺病のせいで戦時中はこの辺りから離れておったから、わしも人伝に聞いた話じゃがな、ここら一帯はそりゃあ酷い被害だったそうじゃ。」

私は思わず息を呑む。兵隊さんの幽霊なのだから戦争の話題が出る事は予想していたが、ここから先は気軽に聞いていい話ではないと悟り正座に座り直す。

「火炎放射器ってわかるか?目の前の人も家もみ~んな焼き払ってしまう、なんとも惨い武器じゃ。その火炎放射器でここら一帯は全部焼かれてしもうた。ちょうど楓ちゃんの家がある所に、当時わしと同じように患って戦地に行けなかった少年が住んどったらしくてのぉ、それはそれは正義感の強い少年として有名だったそうじゃ。それもあってここら一帯の焼かれたご遺体は皆そこに埋葬されたらしい。せめてあの世では少年に村人たちを守ってもらおうと考えての事だったんじゃろう。それから戦争が終わって時代は流れた。ご遺体が埋葬された場所も更地になって売りに出されたんじゃ。元々ご遺体の眠る土地じゃったもんで土地代がえらく安くてなぁ。それを弟が、つまり楓ちゃんのお祖父ちゃんが土地代が安く済んだと喜んで買ったんじゃよ。」
 
そこまで聞いたところで私は血の気が引いていくのがわかった。冷や汗が出る。全身が震え真っ直ぐ座っているのがやっとの状態だ。そんな私の異変に気付いたおじいちゃんが、

「楓ちゃん、大丈夫かい?えらい顔色が悪いぞ?」

「ごめんねおじいちゃん、急用を思い出しちゃって。私帰らなきゃ!」
 
どの道をどう帰ったのか覚えていないが気付いたら自宅へ戻っていた。おじいちゃんから今し方聞いた話を母に伝えた。母の顔色も見る見るうちに悪くなっていく。

戦争に行きたくても行けなかった少年。

その時代の正義感の強さとは戦地に行って活躍する事だったのではないか。

私が見た兵隊さんはその少年で、私を引っ張っていたのは私を戦地に連れて行こうとしていたとは考えられないだろうか。

私を襲ったあの刺すような痛みやヒリヒリとした痛みも無関係とは思えない。

冷静に考えてみれば母や私の病気を治したのが兵隊さんである訳がない。そんなに良い霊がいるのならそもそも若くして原因不明の病になんてならないのではないか。
 
頭の中で色んな憶測が交差する。息をするのも忘れそうになる。
ふと母の顔を見ると、何かを思い出したようにハッ息を呑むのがわかった。
 
「そういえばお母さんが入院したのも14歳だったわ。」




あれから20年が経った。私は結婚そして離婚を経験し、母と同じようにまたこの家に戻ってきた。
子供を連れて…


終わり


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