宿命

 未知の惑星で、未知の有毒ガスによって、クローン従業員たちはバタバタ死んでいった。事前の無人探査では検出されなかった物質は、彼らの遺伝子をズタズタにした。
 開発が始まったばかりの出来事だった。
 夜空に散りばめられた星々を、視界に捉えた従業員Aはこれからについて模索している。
 今や閑散とした基地の通信室で、ひとり、本社との連絡を試みる。
 数分でテキストが一通、返ってくる。
『調査のため、無人調査隊を送る。待機されたし』
 あまりに簡素で、あっさりとしたものだった。
 従業員Aは絶望していた。
 あらかじめ設定された寿命があと一カ月に迫っていた。知ってはいたものの、いざそれが現実としてやってくると、いてもたってもいられなかった。 
 しかし、感情を制御する因子が組み込まれているため、即座に平静をとりもどした。
 自分が死ぬという事実が単なる、一現象として宙に浮かんでいるようだ。
 それはそうと前々からひとつの考えが、作業員Aにあった。
 寿命の制限を解除する違法な遺伝子操作をする、もぐりの医学博士がいる、そんな噂をきいていたのだ。
 なんとか脱出、脱走し自由の身になる。
 いや。
 仮に、すべてがうまくいったとして、住民登録が出来ず、マトモな仕事はない。福祉などの行政サービスもうけられない。
 結局は惨めで、誰ともマトモな関係を築けず、希望はない。その上追われる身であり、流されていく根無し草、それは、生きているといえるのか。
 結局は、
 その程度の〈物〉のくせに、なぜ僕は嘆くのか。
 乾いた笑いが漏れて、通信室に響いて霧散した。
「なぜ僕は生き残ってしまったのだろう」
 こんなことなら仲間たちのように死んだほうがマシだった。そんな投げ槍な感情に突き動かされるように、本社の指示通り待機することにした。
 その後、
 以前、無人探査を指揮した本社の責任者が、不完全な探査の結果、多数のクローン従業員を失った責任を問われ解雇されたという。
「だからなんだ」と、
 地球で寿命を迎えた作業員Aは、デバイスに映るニュース映像に向かって言って、ついに命がついえた。
 遺体が処理されるそばから、
 彼と全く同じ遺伝子のクローンが量産されている。
 そして、人間の遺伝子を有した生物としての苦悩も量産されている。
 それを問題視した、開発部の責任者が会議の場で発言した。
「彼らの感情を完全に抑制し、文字通り、生人形をつくるべきで――」

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