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「フーテンのトラさん」06(再会)
「みぃ物語」(みぃ出産編)で登場した『トラさん』の物語
前回はこちら
「トラさん。」
「トラさんが居たっていう漁港はトラさんの生まれ故郷に近いんでしょ?」
「どうして帰ろうと思わなかったの?」
「タマよ、お前は何にも分かっちゃいねぇな。」
「外で暮らす猫達には『秩序』ってもんがあるんだ。」
「一度その場所を出て行ったらな、そこには『新しい秩序』が生まれるんだ。」
「新しい秩序が生まれたらな、そこに再び入って行くって事はその秩序を乱すって事なんだよ。」
「へぇ、そんなものなんだ。」
「だから簡単に帰るって事はできないんだよ。」
「あっ、」
「・・・そういえば、そんなことで悩んだこともあったっけなぁ。」
再会
毎月第一日曜日に、漁港で捕れた魚を売る朝市が開かれるんだ。
その市には漁師さんたちが捕ってきた生きのいい魚が並ぶ。
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もちろん商品の魚には手を出さないぜ。
そんなことしなくたって『赤い長靴』がうまい魚をくれるからな。
その日は、朝から大勢の人が集まってくるから港は大賑わいだ。
その場で食べれるような場所もあるんだぜ。
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おこぼれにあずかろうと、食べてる客の近くで愛想を振りまいてるやつもいたけどな。
俺たちは賑やかなのはあんまり得意じゃないからよ、そんな光景を遠巻きに見てたんだがな。
じっと見てるのもなんだから、防波堤の方へ散歩に出かけたんだ。
騒がしいところから避けることもできるしな。
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防波堤の先の方まで行ったら家族連れが釣りをしていてよ。
子供たちも釣ってたんだけど、バケツを覗いても魚はいなかったよ。
そんな俺に気づいたのか、子供が騒ぎ出しちまった。
当時の俺は賑やかな子供が少し苦手でな、急いで退散したんだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1709603599253-YDKgbrZtMl.jpg?width=800)
防波堤を引き返してるとな、来るときは居なかった母娘が座っていたんだ。
朝市にやって来たのだろう。
今日の晩御飯になるだろう戦利品を傍らに置いて。
んっ?
聞き覚えのある声だ。
・・・あれは、
神社でお世話になったおばちゃんとお嬢さんではないか!
いやぁ、懐かしいなぁ。
俺は無意識のうちにおばちゃんとお嬢さんの所へ近づいて行った。
俺が背後から近づいても、話に夢中らしく気付かない二人。
「おばちゃん?」
って話しかけてみた。
「あら、可愛い猫ね。」
おばちゃんが俺の方を見て言った。
「えっ?」
「猫ちゃん?」
とお嬢さんも俺の方を見てくれた。
「お嬢さん?」
俺はお嬢さんにも話しかけた。
「えっ?」
「えっ!」
「もしかしてトラちゃん?」
「お母さん、この子トラちゃんじゃない?」
「絶対そうよ!!」
「トラちゃん、トラちゃんよね!」
お嬢さんは俺を忘れないでいてくれた。
俺は嬉しくてうれしくて、お嬢さんの足にスリスリしたんだ。
お嬢さんも俺をなでてくれた。
もう二度と会えないと思っていたお嬢さんが目の前にいる。
俺は有頂天になってしまった。
「おじちゃんは元気にしてる?」
「サクラは?」
俺はたて続けに質問した。
「トラちゃん、鳴き声はあの時から変わらないのね。」
そう、俺は見た目と違って可愛らしい声をしているらしい。
「もう、トラちゃん、なんで突然いなくなってしまったのよ!」
「ずっと探したんだから!」
「ねぇ、お母さん」
「トラちゃんをうちに連れて帰らない?」
「でも、トラちゃんはここで幸せに暮らしているかもしれないわよ。」
「お世話してくれる人がいるかもしれないし。」
「えー、イヤよ。」
「せっかく見つかったのに!」
「ちょっと、落ち着きなさい。」
「今すぐに決めなくたっていいんじゃない?」
「トラちゃんがここにいるのは分かったんだし。」
「帰ってお父さんとも相談しましょうよ。」
「えーっ」
お嬢さんは不満そうだったが、渋々そうすることに決めたようだ。
「トラちゃん、また来るからね。」
「ここからいなくなったらダメよ!」
そう言って、懐かしい赤い車に乗ってお嬢さんとおばちゃんは帰って行った。
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つづく
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