見出し画像

「フーテンのトラさん」05(おいらが主役?)


みぃ物語(「みぃ出産編」)で登場した『トラさん』の物語


前回はこちら


「トラさん、またお話し聞かせて!」

「タマよ、お前も懲りないねぇ。」

「いいじゃない、今日は暇なんだから。」

「何言ってるんだ、お前はいっつも暇じゃねぇか。」
「まぁいいや、俺も暇だからな。」

「あれはモミジの子もすっかり良くなって、赤い長靴も一安心してた頃かなぁ。」
「そんなある昼下がりのことなんだけどな。」



おいらが主役?


なにやら真新しい作業を着て革靴を履いた人間が三人、港をうろついてやがったんだ。
港の漁師に何やら質問して回ってるみたいだった。

まさか、俺たちを捕まえに来たのか!?

港の猫たちの間に一瞬緊張感が走った。

そいつらは小一時間、港やその周辺を嗅ぎまわった後、帰って行ったよ。
俺たちはもう、気になって気になって仕方がなかったからよ、
早速タキさんに聞きにいったんだ。

さすがのタキさんも、そん時はまだ事情が掴めなていないとのことだった。

滝三(通称:タキさん)


そこで、タキさんが探りを入れてくれることになったんだ。

次の日、タキさんの所へみんなが集まってきた。
全員の顔を見てタキさんは説明し始めたんだ。

昨日の連中は俺たちをどうのこうのする、って話で来た訳ではないらしい。
作業服を着た人間は厚生省(現、厚生労働省)のお役人さんで、

「この港にはどのくらい猫がいるのか?」
「それ以外にどんな野生動物が多いか?」

って事を聞いて回ってたらしい。

ご協力お願いします!


タマ、お前『狂犬病』って知ってるか?

人間が狂犬病にかかって発症したら、その人間は100%死んじまうって恐ろしい病気なんだってよ。

狂犬病って言うくらいだから、犬がかかる病気だって思うだろ?
まあ、それも正しいんだけどよ。

でもな、
タキさんはな、

「その『狂犬病』って病気は俺たち猫にもかかるんだぞ!

って言うんだ。
びっくりだろ?

それどころか俺たち猫だけじゃないんだぜ、
ほとんどの哺乳類がかかるらしいぜ。

幸いにも、日本国内では1956年に人と犬で確認されて以降は撲滅されているから安心なんだって。

だけどよ、日本みたいな国は珍しいらしいんだ。
日本は島国だから動物が自由に行き来できないだろ?
だから狂犬病を撲滅できたんだって言ってたぜ。

だけどよ、世界中のほとんどの国は陸続きだから動物が自由に移動できるんだ。
だから「狂犬病」がまだまだ蔓延してるって話なのさ。

少し見にくいですが、地図上の青い国以外狂犬病が存在します

厚生労働省のHPより

狂犬病が発生していない主な国

日本
オーストラリア
ニュージーランド
アイスランド
アイルランド
スウェーデン
ノルウェーの一部
英国の一部

厚生労働省のホームページより


だがよ、
日本も完全に安心、って訳でもないらしいぜ。
地方の大きな港には外国の貿易船がよく来るんらしいんだ。

釧路や根室、舞鶴って所は、当時はロシアの貿易船が良く来てたんだってよ。

今はロシアとの貿易はほとんどありませんが、当時は大変盛んでした


俺がいた所は小さな漁港だったからそんな船は来なかったけどよ。

その地方の港ではな、
本当はダメなんだけど、外国の船員が一緒に連れてきた犬を無断で散歩させたりしてるんだってよ。

もしその犬が狂犬病にかかってたらどうする?
危ねぇだろ?

で、その当時の厚生省が

『日本で狂犬病が発生した時のシミュレーション』

ってやつを作ったんだってよ。
まぁ、その調査の一環で港周辺の動物を調査していたらしいんだ。

タマよ、
その『シミュレーション』ってやつが気にならねぇか?

ちょっと驚きの内容だぜ。

ある意味、俺たち猫が主役になってるんだ。

えっ? おいらが主役?


びっくりしただろ?

まずな、

その外国の船員が連れていた犬が狂犬病にかかってたとするわな。
   
その犬が小さな動物なんかを追いかけるとする。
港なんかにはネズミも多いからな。
   
もしその犬がネズミを咬んだとする。
   
そうしたらそのネズミが狂犬病にかかる。

俺たち猫の中にはネズミを見つけたら追いかけずにはいられない!って奴が多いだろ?
義理堅い俺たちとしては、世話になってる人間にお礼として献上するのが筋だしな。

ちなみに俺はこっち派だけどな


献上したネズミがまだ生きていて人間を嚙んだとしたら・・・人にうつっちまうけど、まぁ、それはあんまりないかな。

問題は、「ネズミを捕らえてしまった俺たち」なんだってよ!

俺たち 猫が 狂犬病にかかるって言うんだよ。

狂犬病にかかってしまったらな、狂犬病のウイルスってのは神経を伝わってゆっくりとまで行くんだそうだ。

脳までウイルスが到達してしまうと、もう治せないらしい。

ただし、脳に行くまでに治療できたら治る確率が高いんだってよ。
自由気ままに生きてた俺たちにとっては、治療なんて考えられなかったけどな。

タマよ、分かったかい?

日本で狂犬病が再び発生する時は、

「港近くの猫が発症して初めて気づく」

って事になる可能性が高いんだってよ。


猫の様子から気づくってのには、もう一つ理由があるんだ。

分かるか?

他の野生動物はな、人間が近づいたらすぐ逃げるだろ?
だから人目に付きにくいんだってよ。

それに引き換え、俺たちは人間と仲良しだから人目に付きやすいという訳さ。

最後に狂犬病が発症するとどうなるか教えてやるよ。

狂犬病のウイルスは脳で悪さするからよ、
性格が変わって狂暴になったり、変な行動をとったりするんだってよ。
よだれが止まらなくなったり、物を飲み込めなくなったりもするらしいぜ。

だから、

「港に変な行動をしている猫がいる」

って事になる訳さ。

そんな報告書を作るためにお役人達が港を調査していた、って事よ。
お役人が港の猫達を一掃しに来たのかと思って殺気立ってたんだけど、そうじゃなかったから一安心したけどな。

タマよ、もういっぺん言っとくけどな

「狂犬病」ってやつは怖いらしいぜ。

・・・それにしてもタキさんって物知りだなぁ。


フォッ、フォッ、フォッ、それ程でもないがのぅ

おわり

この記事が参加している募集

私の作品紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?