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失恋をした日の話。

ひっそりと失恋をした。
何気ない会話の中で好きな人に彼女がいたことを知った。
しかももう1年近く付き合ってたんだね。
気づかなかった。

でもまだその頃は話したこともなかったから当然か、
最初はね、君の絵に一目惚れしたんだ。
春に黒板の隅にいたペンギンを見つけた。
この絵を書いた人と話してみたいと思った。
友達に聞いて君が書いたということは分かったのだけど何を話せばいいのか分からないまま夏になった。

そろそろ授業用のノートが2冊目に変わる時期になって、新しいノートに君の絵を描いてほしいって言ったときに初めて話した。
ちょっとびっくりした顔をしてたけど、そんなこと言われたのは初めてだって言いながら、
ラフ書くから待って、って
たかがノートへの落書きをお願いしただけなのにこんなに一生懸命考えてくれるんだって思った。
初めて話したのに、どこかで会ったことがあるような居心地の良さがあった。

秋になって席替えをした。
君と席が前後になった。
話す機会が増えて毎日が楽しみだった。
2人とも勉強が苦手だったから、
あーだこーだ言いながら授業を受けてた。
君の目を見ながらくだらない話をするのが好きだった。
私が間食に食べてたグミを見つめる君と一緒にグミも食べたっけ。
この幸せな時間がずっと続けばいいと思っていた。

冬にになって修学旅行の季節になった。
同じグループではなかったけど、一眼を持ってきた君はクラスメートの写真を撮っていたね
私の写真も撮ってくれた。
狐のお面を被ってピースする私に、誰だかわからないけどいいの?って笑いながら写真を撮ってくれた。

冬になって年が明けてまた春が来た。
また1年間君と同じクラスだとわかった。
この1年がすごく楽しみになった。

梅雨が訪れ、学園祭の準備が始まった。
模擬店の準備で同じ部署になった。
君にクラスのキャラクターを書いてほしいとお願いすると、快く了承してくれた。
しばらくして君は1枚のルーズリーフを持ってきた。
たくさんの動物が描かれた紙を見せながら、どれが好き?と聞いてきた。
私は目についた羊を指差した。
わかった、と言って店の看板を作り始めてくれた。

慌ただしい準備期間を終えて学園祭が幕を開けた。
彼がデザインした羊をプリントしたクラスTシャツを着て始めた私たちの模擬店は、
予想以上の売上を叩きだし大盛況で幕を閉じた。
準備から当日に掛けてたくさん話をしていっぱい笑って過ごした。
私たちはとても仲のいい異性の友達だった。
他の人にはしないようなおふざけができる程度には互いのことを信頼している親しい友達であった。
話す横顔にはずっと前から知ってたような安心感があった。

祭りも終わり寂しさを感じる頃、何人かで集まって他愛のない会話をしていた。
君は絵を書いていて、そこには学園祭の時の羊だけでなくボブヘアの抽象的な女の子が書かれていた
友人の1人が、これ誰なの?と聞いた。
私が想い人だよ、と少し冗談ぽく言うと
あれ、言ってなかったっけ、と言われた。
話を聞くともう一年近く付き合っているそうだ。
昨日も二人で散歩に行ったんだ、もうすぐ1年記念だから何をプレゼントしようか、と幸せそうに話す君の目を見ることが出来なかった。

私はいつも好きな人と仲のいい女友達になるのは得意だった。
でも好きな人の好きな人になることは出来なかった。
だから君が私を好きになることなんてないって知っていたし、この気持ちは気付かないつもりだった。
でも君に彼女がいると知って胸を締め付けられて、私は君のことが好きだって気付いてしまった。
でも叶わないって知ったからって、別に悲しいわけじゃなかった。
ただ彼女がいると知っても好きなままだったのは初めてだったから戸惑った。
理由がわからなくて君のことを考えていたら、君を好きだった理由がわかってしまった。
私の好きな絵を描くからじゃない。
しょうもない話でふざけ合えるからだけじゃない。


君の目が、私が忘れられないあの人の目にそっくりだったからなんだね。



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