ナポリタンムッシュ⑤ #どこにでもいる普通のサラリーマン
しばらくして、思っていたより少し多いナポリタンがタバスコと粉チーズとともに出てきた。それと同時に、店主さんがキッチンから出てきてカウンターでひと休みをしに来た。
「お兄さん、仕事終わりかね。お疲れ様。」
店主さんの朗らかな容姿とナポリタンの香りにホッとしたせいか、思わず会ったばかりなのに愚痴をこぼしてしまった。
「そうです。今日も疲れてボロボロです。粉チーズたくさんかけてもいいですか?」
「なにを遠慮してるんだ。笑
ナポリタンってのは、チーズもタバスコも好きなだけかけて食べるもんだよ。」
粉チーズをまるでストレスを発散するようにたくさんかけた。チーズの香りで急にお腹が空いてきて、勢いよく最初のひと口からがっついた。
ナポリタンを頬張りながら、なぜか社会人になった時のことを思い出した。
海外とやり取りをしながら、大きな商売がしたい。そんな思いで入社した今の会社。あの時思い描いた姿はこんなはずじゃなかった。もっとキラキラした姿でサラリーマンをしているイメージだった。
「店主さん、商売って難しいですね。最近物が全然売れなくて。」
「ほぉ、お兄さん営業マンか。今おいくつだい?」
「26歳です。」
飾り切りがされている大きめのウインナーをフォークで刺すのを途中でやめて、店主さんに仕事の近況について少し話した。
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