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#講義録・卒業する皆さんへ 2024.1 〜臨床実習に寄せて贈る言葉〜

この文章は、鍼灸マッサージの専門学校で講師を務めるなかで、これから鍼灸マッサージを仕事にしていく方に向けた言葉を残したものです。

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こうして皆さんの前でお話するのも、今日が最後です。
臨床実習の締めくくりとして、ひと言メッセージを伝えたいと思います。

私自身がそうだったので、組織から自由になりたいという人に向けて話をします。そうじゃない人は、それなりに聞いていてください。

今日のキーワードは、数字の「3」です。

さて、本題に入る前にお聞きします。
「みなさんはお金稼ぎたいですか?」
この質問にNOという人はいないと思います。

・もっと鍼灸を学びたい
・スポーツ選手を治療したい
・独立開業したい

鍼灸師、マッサージ師の資格を活かしてできる仕事は、それぞれに異なります。

しかし「お金は要りません」という人はいないでしょうし、そういう人には会ったことがありません。
もしいたら、紹介してください。友だちになりたいと思います。

それはさておき。
最後に話をするにあたって、これまで出会った3人の卒業生を紹介します。

3人の卒業生その後

まず1人目は、大森海岸でひとり治療院をしている男性です。
専門学校に入る前は、たしかスーパーでアルバイトをしていたと記憶しています。

彼は20代で専門学校に入って来ました。
中間テスト、期末テストなどはいつも赤点スレスレで、決して勉強が得意なほうじゃなかったです。

実技を教えていても、少し考え方が偏っていて素直じゃないなぁという印象がありました。どういうことかと言うと、自分が納得しないとやらないという頑なな姿勢の人でした。

彼が国家試験に合格して、今はどうしているかというと指圧の道、ひと筋。
自分で店を借りて、指圧治療院をしています。
そして、自己研鑽のために業界団体に参加して指圧を仕事にしていることに誇りを持っています。

2人目は、埼玉で訪問マッサージをしている男性です。
彼は新卒(高校卒)で専門学校に入って来ました。彼の印象は、よく遅刻する学生でした。
授業で話をしていても、何を伝えてもわかってるのかわかってないのか、反応が薄かったのを覚えています。

偶然なのですが、私の前職だった訪問マッサージの会社に彼もあとから入社してきました。そして、おなじ事業所で一緒に働くことになりました。
当時、私は新人の教育係ということで彼を同行研修に連れて行ったのですか、私が患者さんに施術をしている横でウトウトと寝ていました。

「おい、寝るなよ!」とすかさず心のなかでツッコミをいれました。
施術のあとに様子を聞くと、彼は当時流行っていたモンハン(モンスターハンター)が大好きで、夜寝不足になってしまう。だから居眠りをしてしまったんですと申し訳なさそうにしていました。

その彼は「僕は治せないから、訪問マッサージをやるんです」と話していました。
介護やリハビリを必要とする高齢者を訪問して、マッサージしながら話し相手にもなる。幸いにも人当たりのいい彼は、患者さんに気に入られて仕事はうまくやっていると聞いています。

3人目は町田でクラスメイトを雇用して開業している男性です。
その方は社会人を経て専門学校に入って来ました。そして、マッサージの資格を取る前にすでに理学療法士としてリハ職の仕事に従事していた経験のある方でした。

在学中から面倒見がよくて、クラスの中心的存在。
人柄がいいことに加えて知識もしっかりしていたので、授業では迂闊なことを言えずやりづらかったのを覚えています。

現在は、当時のクラスメイトと訪問マッサージの治療院を経営しています。そして、地域のケアコミュニティのなかで研修会を開くなどまわりから信頼される仕事をしています。

自分の人生を生きるために

さて、3人の卒業生のその後を紹介しましたが、みなさんはどんな未来を創造しますか。

富士山に登ろうと思うから、富士山頂に立つことができます。歩いていたら、たまたま富士山に登っていたなんてことはありません。

言い換えると、思い描いたものが結晶化して形になるということです。
そして、おなじ鍼灸師、マッサージ師の資格を持ったとしても、その後の生き方は人それぞれです。

・自分の人生を生きる
・他人の夢に共感して生きる
・目標なく流されて生きる

どれも選択肢としては、アリだと思います。
実際に私も、流されて働いていた時期がありましたし、ほかの人の夢に共感して仕事をするのも悪くないと思います。

そこで大切なのは【自分を知る】ということです。
・過去/今まで何をして来たか
・現在/いま、何をしているか
・未来/これから何をしたいか

皆さんはもうすぐ国家試験を迎えますが、試験が終わってひと段落したら、自分自身がどうありたいかを考えてみてください。
今日は3人の卒業生を紹介しましたが、もちろんこれ以外にもいろんな形があると思います。

次に、自分を深めるためにしてほしい3つのことを紹介します。
1つは、本を読む
2つ目は人に会う
3つ目は旅に出る

これは前・ 立命館アジア太平洋大学学長だった出口治明さんの言葉です。

1.本を読む
気に入った著者の本を数冊読むと、その人の考え方がわかります。
そして、自分はこういう考え方に沿って人生を送りたいという指針になると思います。自分の好みはどんなものなのか客観的にわかるようになります。

今はネットで本を買える時代になりましたが、Amazonで(おすすめの本があります)というのだけを読んでいると視野が狭くなってしまうので、たまには本屋へ行っていつもは読まない本を読むのをお勧めします。

いや、買わなくってもいいんです。本棚を眺めていて、気になった本を手にしてみる。パラパラッとページをめくってみる。そうすることで普段とは違った情報に触れてください。

ひとつ、これから仕事をするにあたって勧めたいのは、この本です。
働くことの本質がなにか、理解できます。

2.人に会う
鍼灸師、マッサージ師の仕事には対人スキルが必要です。
職場の人、職場以外のコミュニティなど、いろんな人と会って話をしてみてください。それは飲み屋でも勉強会でも、久しぶりに会うクラスメイトとの近況報告でも構いません。

自分の行動の枠のなかに収まっているだけでは、得られない発見があります。人に会うことで、自分とは異なる新しい考え方に出会えますし、その反面として自分という人間に気づくことができます。

3.旅に出る
旅行は日常から離れる効果的な手段です。
いつもの仕事や人間関係から距離を置いて、自分を振り返ってみてください。そのときに必要なのは、お気に入りの場所と今まで行ったことのない場所です。

お気に入りの旅行先は、気兼ねなくくつろげるサードプレイスです。
もし叶うなら、行きつけの定宿があるといいですね。
初めて行く場所は、新鮮な体験を与えてくれます。読書とおなじで、好みの本から離れて、新しい刺激をもらうことで発見につながります。

旅行の3つ目のスタイルは、知り合いを訪ねて旅をすることでしょう。
これまで訪れた場所でも、初めて訪れる場所でも、また違った発見がありますし、地元に詳しい知り合いのガイドがあれば快適な旅になることは間違いありません。

ぜひ、本・人・旅の3つを鍵として自分を知り、見聞を広めていってください。

リアルを大切に

ところで、みなさんと授業で接していて「先生は穏やかですね」とよく言われます。「怒ったことないでしょ」とも言われますが、人間なので怒ったことはあります。

私がいまに至るまでに、大きな挫折が2回ありました。
ひとつは高校のとき。今でいう引きこもりでした。もう一つは40代のとき。これは話し出すとこの場がチーンとしてしまうので止めておきます。

わかりやすくまとめると、
・20代の終わりはギラギラしていました
・30代は傲慢でした
・40代は失意の日々を過ごしていました

そして、それを乗り越えたから今があると思いますし、こうして皆さんの前で話ができるまでになりました。
もしみなさんがこの先、人生どん底という時は諦める前に連絡をください。
高円寺で一緒にごはんを食べて、話を聞くことはできますので。

今日は3人の話をしましたが、それぞれリアルに実在する人たちです。
・自分の信じた道を歩くこと
・気ままにゲームに没頭すること
・仲間と起業すること

どれもその人にとっては正解だと思いますし、決まった答えなどありません。

3人の事例を紹介したのは、リアルを大切にしてほしいからです。
皆さんがこれから働くのは「現場というリアルで泥臭い場所」だからです。どうぞ自分の勝ちパターンを見つけて、幸せな人生を送ってください。
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(授業の最終日に学生に向けて話した内容に補足、追記をして読みやすくしていますのでご了承ください)

physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。