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〜オウム〜


 オウム


 強風の中を飛ぶ鳥たちをみると胸が苦しくなる。


 小さい頃から憧れていた。

 鳥は翼を広げて、自在に大空を舞うことができる。

         ○

 空を泳ぐ鳥たちを見ると思うことがある。

 「風をよむって大変だろうな」

 風(気流)の流れをよんで空を舞う鳥たちだが、その姿があまりにも優雅なため、“風をよむ”というよりも、“風と遊んでいる”ように見えることがある。

 強風の日などは、まさにそうだ。
 ネットで「風強い」がトレンドに入っている日などは、いつも空を見上げてしまう。

 強風が吹き荒れても、鳥たちは平然としている。
 風をよんで前進しようとしても、あまりの強風に進むことが出来ていない。
 結果的にずっと同じ場所を飛んでしまい、まるで空にプリントされた絵のようなのだが、それでも鳥たちは平然としている。
 なかには凄い勢いで風に流されている鳥もいる。
 あまりの飛行スピードに「え? UFO?」とみまごうほどだ。
 しかし、流されてもなお、鳥たちは平気な顔をしている。

 そんな姿が、風をよんでいるのではなくて、風と遊んでいるように見えるのだ。

ボク「おーーい! 上空は風が強いから危険だよ! 降りておいで!」

鳥「風が強いから危険? ははっ! なに言ってるんだ? あーれー!」

ボク「ほら! 流されちゃってるじゃん!」

鳥「流されてるんじゃない。乗ってるんだ! かっこつけてな!」

ボク「バズライトイヤーか!」

鳥「無限のかなたへー!」

ボク「遊んでやがる・・・」

鳥「風が吹かないと俺たちは飛べないんだぜ!」

ボク「え・・・」

鳥「人間は違うのかーーーー?」

 いつの間にか別の鳥たちが集まってきた。
 隊列を組み、三角や楕円型など様々な模様が空に浮かび上がる。
 大空に彫られた鳥型タトゥーは、それもう見事だった。

鳥2「おーい! そこの人間ー! なに立ち止まってるんだよ?」

鳥3「なんか、『強風が危ないから降りてこい』って言ってたらしいわよ」

鳥4「ははは! 何言ってるんだよな! 風が強い方が高く飛べるし、皆で陣形組んだら楽だよな!」

鳥5「てゆーか、強風が吹かなきゃ私たちって集まらないじゃない」

鳥6「言えてるー!」

 仲間外れになるのが恐かった。
 いじめられたくなかった。
 ひとりぼっちになりたくなかった。
 だから、いつも誰かに合わせていた。
 笑顔を振りまき、波風たたせないことに努めていた。

 皆がボクに抱くイメージは「真面目でいい子」だった。

 「真面目でいい子」の何がいけないんだ。
 勉強だって運動だって、無難にこなしてきた。
 ボクは何も悪くない。ボクは間違っていない。

 でも・・・

鳥7「風が強い方が楽しいもんなー!」

鳥8「風が弱いとつまんないよ! 確かに風は弱い方が虫たちがいっぱいいるから、お腹は満足するけどさ。飛ぶのはつまんないよ!」

 人が集まる場所は避けてきた。
 だって人が多いんだから、その分トラブルだって多いはずだ。
 いいことなんて一つもないに決まってる。
 そんな場所に行っても楽しくない。
 損はあっても、得はない。

 だからって、文句は言わない。
 こっそりと彼らの目をかわして、微笑んでいればいい。
 巻き込まれるのはごめんだ。

 先生も、親も、これを求めていたはずだ。

 真面目でいい子。

 このままでいい・・・。

 このままでいいんだ・・・。
 
 そう思えば思うほど、頬に生ぬるい水が流れるのはなぜだろう。

 自分が選んできた道のはずなのに・・・。
 ボクの足跡がどこにも残っていないのはどうしてだろう・・・。

 前を見ても、後ろをみても、なにも見えない。

鳥9「ねえねえ、あの人、ピクリとも動かないね。絵みたいになっちゃった!」

鳥10「ナスカの地上絵か! きっと、ずーっと風をよんでるんだよ!」

鳥たち「あっはっはっはっはっはっは!」

 ボクは、強風の中を飛ぶ鳥たちをみると、胸が苦しくなる。

 
 (風が吹かないと飛べない・・・風が吹かないと飛べない・・・風が吹かないと飛べない・・・風が吹かないと飛べない・・・風が吹かないと・・・)


 なんども、なんども、オウムのように呟いている自分がいた。


 ボクの周りには、風が吹いていない・・・。




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