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クーラーとアボカドの木 

春先にたしかアニメの影響かなにかで、植物を育てることに興味を持った息子と一緒に、マリーゴールドとバジルの種と、2つの観葉植物を購入した。息子は、ハーちゃん、パンちゃん、バジルくん、くうちゃんとそれぞれ名付け、保育園へ向かう前の水やりを毎朝の唯一のルーティーンとした。

毎日家で仕事をする私は、夏のはじまりから冷房で足先が冷たくなるくらい涼しい部屋で過ごしておりそして、8月の中頃には息子が大切にしている観葉植物たちはみな瀕死状態になっていた。次々と葉が落ち、枝が黒くなり、枝の一部はぶよぶよとふやけているようだった。気づいた頃には遅かった。あわてて冷房の温度設定をあげてじんわり汗をかきながら仕事するようにしたり、日中の日当たりの良い時間に観葉植物たちを窓辺に移動させて日の光を浴びさせたりもするが、葉は日に日に落ちていく。息子の日課の水やりですら逆効果に見えた。購入時に「直射日光を避けて日の入る室内で育て、夏は毎日水をあげるように」「それだけ」と言われたのだが、もうなす術はなさそうだった。

どうせ枯れるならばと、この猛暑の日々に外で、しかも日なたで元気に育ち、役目を終えようとしていたマリーゴールドの隣に観葉植物たちを並べた。息子の水やりの日課は変わらない。そうして2ヶ月ほどが過ぎた頃、その観葉植物たちは野生の木々のように枝を伸ばし、葉を増やし、信じられないくらいに元気になっていた。

やっと朝夕に半袖だと少し涼しく感じるようになってきた、10月のなか頃に室内へ戻した。ちなみにこの観葉植物たちの中には、途中からアボカドの木が加わっている。夕飯に食べたメキシコ産のアボカドの種を、息子が植えたいと言うので、芽が出るわけがないとも思ったが、彼を納得させるために枯れかけたマリーゴルドの鉢植えのすみにぽいっと植えたのだ。マリーゴールドが完全に役目を終えるころには、野生化した観葉植物たちと同じくらいの背丈までにアボガドの木は成長した。

37歳にもなると経験や常識が働いて、何事も「やらない選択」をとることが増えたように思う。だけれど、この経験や、これまで培ってきた常識というものは本当にアテにならないのだなと笑ってしまった。子供を育てるなかでどれだけの発見と奇跡を与えてもらえているのだろうか。この夏はとても暑く8月全日が猛暑日を記録し、息子は5歳になった。


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