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何故、人は「都合の悪い“歴史”」は忘れようとするのだろう。

高度経済成長時代の記憶は…。

昭和期生まれ(昭和戦前〜1989年まで)は大概、65年くらい前の「高度経済成長時代」とか「バブル時代」のことを懐かしく思い出し「あの頃は良かったなぁ」「あの頃に戻りたいなぁ」などと、遠い目をしながら語っていたりする人が多いように思う。斯くいう自分も「昭和期生まれ」だ。

高度成長時代とバブル時代。いずれも日本社会にとっては "未曾有の繁栄”と”栄光と活力”に溢れた時代だから、思い出して語るのにちょうど都合のいいものなのだ。

一方、その真逆の時代もある。思い出したくない、日本人にとって都合の悪い時代

それが大正末期(1925年)の『治安維持法』公布・施行から昭和20(1945)年までの「日本の軍部の本格的なちょうりょうばっ(⇐ほしいままに跳ね回る⇢ワガママに振る舞う、悪人が思うがままに振る舞うの意)」の時代である。

早い話が「日本が戦争へとのめり込み、ついには破滅した時代」である。

世間がきな臭くなりだした頃に…。

東京や大阪といった大都市圏を中心に「エロ・グロ・ナンセンス」的な退廃した時代風俗の空気が支配していた時代、議会制民主主義が有力議員たちの相次ぐ汚職(疑獄)により危機に瀕しているのを横目に観ながら、彼ら軍部は世間に対する支配力をジワジワと高めていった。

治安維持法の成立後しばらくは自由な空気が世間を包んでいたがやがて1931年、日本の関東軍が中国東北地方において柳条溝事件(所謂「満州事変」)を引き起こし、それをキッカケに軍国化のスピードは徐々に、然し確実に増していく。

陸海軍部関係者が相次いでクーデター(1932年の5.15事件と’36年の2.26事件)を引き起こし、大陸では’32年、先の事変の事実上の主犯・関東軍による支配により傀儡国家「満洲国」が彼等の主導により成立。清朝最後の皇帝だった愛新覚羅溥儀(宣統帝)をそのトップ(最初は執政、のち”皇帝”と号する)に据えた。

その後、1937年に日中戦争が始まり(今も悪名高い『南京事件』はその時に起こった)、そこから泥沼の戦中時代が始まる。

1939年、ナチスドイツが欧州で第二次世界大戦の火蓋を切って落とした3年後、日本は真珠湾攻撃を皮切りにアジア太平洋戦争を引き起こし、一層のドス黒い戦争の"泥濘でいねい”にハマっていった。
同年、治安維持法が強化され、これを奇貨として軍部政府は戦争に本気で反対する人々を、徹底的に弾圧しまくったのだった。

このときから、広島と長崎に世界最初の核兵器が投下されるまでの間、関東軍の所謂731部隊による「人体実験」韓国人への「徴用工」「従軍慰安婦」強制など、数々の否定的な意味で「ヤバ」過ぎる事案を”やらかした”のだった。

この「やらかし」こそが、主な意味で日本にとって「都合の悪い歴史」というわけだ。

戦争が終わり、やがて昭和30年代の「栄光と活力に溢れた時代」がやってくると、私達はそんな「やらかし」などやっていませんよ、という「顔」をしてしまい、語らなくなった。自分はその当時(昭和30年代初期)にはまだ生まれていなかったが、「南京事件」や「731人体実験」など、戦中に大陸でやらかした忌まわしい事柄については、当時は誰もが口を「つぐ」んでしまっていたに違いない。

そのかわり、今に至るまで当時をリアルタイムで経験した人たちが語るのは「サラリーマンとしていきいきと働けて、給料もちゃんと仕事に見合うだけの金額をもらえて、毎日の生活が充実していた…そして日本が世界に冠たる経済大国に成長していった…『もはや戦後ではない』と言われた"高度経済成長期”の話」だ。

真の平和のためには…語り継ぐべし。

しかしその一方で、戦争の記憶に関しては、上に述べたように、語らなくなってしまっていた。

昭和が過ぎて30余年、平成にも幕が降ろされ、はや5年。

ようやく(というか・・・令和年間が始まる前からではあるが)、戦後70余年経った今日、その「都合の悪い歴史」を語る人々が現れている。
核兵器投下の忌まわしい記憶を、それこそ大いなる勇気を奮い起こして語りだす人々は言うに及ばず、「徴用工」「従軍慰安婦」「創始改姓」などの、戦前に日本が韓国を始め数々のアジア各国・地域に苦しみを与えてきた忌むべき行為について批判しながら語る人々も出てきている。

彼等の多くは当事者である。然し高齢化の問題に直面している。彼等がその悪い歴史を語れる時間は、もう長くはない。

彼等が今、語りに語ってきた「悪い歴史」についての記憶を、今度は後の時代を生き抜く私達、そして私達の後に続く世代が引き継ぎ、語り継いでいくしかない。

そしてそれは「揺るがざる平和」を世界に、そして地球全体に築く為には絶対に必要なことなのだ。

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