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沖縄の風に吹かれて 第5話

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「喜笑転決ライブ」を観たか?

オリジン・コーポレーション主催のお笑いイベントである「喜笑転決ライブ」をご覧になったことはあるだろうか。見たことがないという方はぜひ毎月最終週の土曜日にテンブスホールで行われる同ライブを覗いてほしい。面白くない芸人さんから腹から笑える芸人さんまで、魚目混珠と書けば失礼かもしれないが、種々様々な芸人さんが登場し、それぞれの持ち時間に応じてネタを披露するのである。

子どもの頃、木村進や岡八郎による吉本新喜劇、人生幸朗・生恵幸子、中田ダイマル・ラケット、西川きよし・横山やすし、若手では明石家さんま、島田紳助、笑福亭鶴瓶に育ててもらった。お笑いに対するアンテナは、関西人の平均値以上に敏感である。

お笑いは芸人と観客との勝負である。今もお笑いのライブにはよく出かけるが、笑ってたまるかと思いながらライブを観る。笑わせられるもんなら俺を笑わしてみぃ!という気概を持ってお笑いを見ているのだから、不健康極まりない。芸人さんたちにとってはたちの悪い客ということになろうが、関西で生まれ育った人間の多くはそうだと思う。

「喜笑転決ライブ」が他と違う点がひとつあるのは、観客も参加できるシステムなのである。何度も吉本新喜劇や落語の高座をはじめとする種々様々なお笑いイベントに足を運んでいるが、観客参加型のライブはここだけではないだろうか。

参加すると言っても芸を披露するのではない。入口で2,000円を払うと(安すぎる。もっと高くていい)フライヤーがもらえる。登壇する芸人さんたちの名前や写真が掲載されているパンフレットである。それをひっくり返すと、裏面に採点表が付いている。ゴルフ場によくある鉛筆がはさんであり、それぞれの芸人さんたちによるパフォーマンスが100点満点の何点だったかを観客が採点するのである。

コメント欄もあり、一組が終わるたびに点数をつけ、コメントを記入することになる。面白かった!ぜんぜん面白くなかった!ツッコミが甘い!何を書いても構わない。会場の観客200人全員が点数をつけ、コメントを記入するのだ。その採点用紙は出口で回収され、採点結果が来月の「喜笑転決ライブ」の登場順や持ち時間に反映される。それを聞くと、観客としてはいい加減な採点をするわけにはいかない。自分がつけた低得点のせいで努力している芸人さんが路頭に迷う可能性もあるのだ。会場の観客はみなかなり真剣に採点している。

一緒に行った興南の教員たちも、あれこれ言いながら採点をしていた。教員の悪いサガである。コメントの見せ合いをしたところ、通知簿や調査書のコメント欄を彷彿とさせる指導的コメントで隙間なく埋め尽くされていた。読んでくださった芸人さんたち、悪気はないので気を悪くしないでいただきたい。暗い観客席でそれなりに一生懸命書いたのである。

それで思い出した。いつの頃からか学校に生徒たちや保護者が教員の授業に対してコメントをつける「授業アンケート」が導入された。私が勤務していた灘校では導入していなかった(なんでその教科のアマチュアである生徒たちや保護者に我々プロが採点されないといけないのだ)けれども、導入している教員たちはさぞかし気分の悪いものだろう。

生徒たちに迎合する教員が登場することは想像に難くない。生徒たちが喜びそうな、余談たっぷりの授業をし、多少の問題行動があったとしても笑顔を絶やすことなく、友達ライクに接する「よい人」を演じておけば、授業アンケートの評価が低くなることはないように思われる。私のように生徒たちからオニだのアクマだのキチクだのと言われるような教員は、と言ってもそんな評価を気にするほど暇ではないのだけれども、損である。

オリジン・コーポレーションの芸人さんたちの採点をしながら、授業アンケートを考えていた。教員と同様に、もしかしたらこの厳しいシステムに反対する芸人さんたちもおられるだろう。でも、教師にしても芸人さんにしても、駄目だしされてナンボ。そこがスタートラインである。他のどんな仕事だって同じじゃないだろうか。匿名での批判に耳を傾ける必要はないと考えるので、私はその用紙に自分の名前を書き込む。記入欄がなくても記入する。

私の場合、それぞれのパフォーマンスをもっと聞いていたいかどうかを物差しとしている。早口で聞き取れない箇所が多い場合は減点したり、逆に思いもよらないツッコミが入った場合は加点したりしているうちに、あっという間にすべての芸人さんたちの舞台が終わる。自分もライブに参加しているという気持ちが興奮を呼ぶ。

「喜笑転決ライブ」に足を運ぶたび、オリジン・コーポレーションの芸人さんたちに感謝している。沖縄在住者だけでなく、沖縄旅行や修学旅行の日程が最終週の土曜に当たるという方は、国際通りに足を運んでいただきたい。採点しやすいようにバインダーやクリアファイルなど、下敷きになるものがあれば便利である。

木村達哉

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