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沖縄の風に吹かれて 第4話

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沖縄で住むところを決めた話

沖縄に移住したわけではない。しかし、毎月一度は那覇空港に降り立っている。自己紹介をする際には、兵庫に年の1/3ほど、沖縄に年の1/3ほど、残りの1/3はそれ以外のどこかにおりますと言うことにしている。すでに沖縄には「行く」というよりもむしろ「戻る」感覚である。

これだけ頻繁に沖縄に戻るとなるとそれなりに作戦が必要だ。なにしろ飛行機代だけでも往復で最低でも3万円は取られる。ハイシーズンともなれば、片道5万ほどかかる。生徒数の多い首里高校や那覇高校で『新ユメタン』を採用していただいてもスーパー大赤字。そこにホテル代を加算してほしい。如何に大きい出費かがご理解いただけるだろう。これでは長続きしない。

勉強にしても趣味にしても何にしても、長く続けることが大切なのであって、短期的爆発にはほとんど意味がない。スペイン語の勉強を始めたとFacebookに書いて「いいね」を多数集めた知り合いは1週間で頓挫した。これでは「いいね」が泣くというものだ。私は沖縄でも福島でもNPO活動に携わっているが、多くのNPOが続かない原因は「やる気はあるがカネがない」ということにある。

最初はおもろまちにあるホテルに宿泊していたが、財布が悲鳴をあげた。レンタカー代も馬鹿にならなくなった。これはまずいぞと思い始めたとき、興南の教員が提案してくれた。沖縄で部屋を借りたほうがいいんじゃないでしょうか、と。

税理士に相談し、確定申告の際に部屋代を経費として計上してもらえるのかどうかを尋ねると、これだけ沖縄で活動しているのだから問題はないとのこと。それなら安いところをと考え、北谷にある不動産屋に飛び込んだ。紹介されたのは、かなり狭い部屋であった。が、眼前にアラハビーチが広がり、夕方には夕陽が海に沈んでいくのが見える素敵な場所であった。部屋代を聞くと驚くほど安いじゃないか。即決であった。

部屋から見えるアラハビーチ

しばらくはアラハビーチを見ながら過ごしていた。朝は海からの潮風で目を覚ました。ところが、快適というのはこういうことなのだと思っていたのに、問題が生じた。自宅で犬を飼い始めたのである。沖縄にいる間は自宅近くのペットホテルに預けねばならない。そうするととんでもなくカネがかかることになった。 またしても作戦を考えねばならなくなった。当時、ANAの飛行機でペットを運んでもらうと6000円(往復12,000円)かかったが、ペットホテルよりもそちらのほうが随分と安い。沖縄にトイプードルのさくらを連れていくことに決めた。彼女にとってもホテルでひとり寂しくいるよりも、暖かい沖縄で走りまわるほうがいいだろう。

そうなると今度はアラハビーチの部屋を引き払わねばならなくなった。ペット禁止というお達しが下されていたからである。うちなーらいふというサイトをチェックする毎日が始まった。興南の教員たちからは、沖縄の誰よりもうちなーらいふに詳しいですねと笑われてばかりいた。

今は沖縄に戻ると宜野湾市にいる。新しい部屋でさくらと過ごしているのだ。また、自宅の軽自動車を船で運んだ。船代は50,000円ほどで、都度都度レンタカーを借りることを思えば圧倒的に安かった。那覇新港で神戸ナンバーの車を受け取り、宜野湾の部屋に戻る際にはなんだか心浮き立つ思いだった。ウチナーンチュになれた気がした。嬉しくて嬉しくて、スターダスト・レビューの「シュガーはお年頃」を口ずさんだ。

あとは飛行機代だけだ。が、これはあっさりと解決した。どの道にもプロはいる。ANAカードを作って全ての支払いをそれですれば、沖縄への飛行機代ぐらいのマイルなんてすぐに貯まりますよと教えてくださった人がいらっしゃるのである。 買い物は言うまでもなく、ほぼ全ての出費をANAカードで払うことにした。現在は沖縄に無料で何十往復できるんだろうというぐらいにマイルが貯まった。愛犬のぶんをマイルで払えないのはいたしかたないが、人間の飛行機代は無料になった。

サンセットビーチは犬も入れる

沖縄での活動が続けられることになった。加えて、琉球新報社やオリジン・コーポレーションが仕事をくださるものだから、沖縄に知り合いがどんどん増えていった。学校関係者だけでなく、各種業界のプロたちと知り合う機会を得たのは私の財産になった。何よりも望んでいたことである。

これを書いている間に豊見城市の中学校から、次はいつ戻ってくるのかと素敵な問い合わせが入った。来月は10日間ぐらいいますよと返信すると、じゃあうちの学校に来てねと軽いオファーが躍りながら返ってきた。私は来月、神戸ナンバーの軽自動車で西原インターの右隅にあるETCレーンを通過するのだろう。今日はどんな楽しい人たちと知り合えるんだろうとわくわくしながら。  

木村達哉

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