豆腐に込められたラブって? ヴィーガンの聖地・ ポートランドで100年以上続く「Ota Tofu」に潜入してみた。 #KUKUMU
こんにちは。大学を休学し、アメリカは西海岸、ポートランドに留学中のきむりさです。
実はこの地、「ヴィーガンメッカ(聖地)」(*1)の一つとも言われるほど動物性のものを食べない人たち向けの店があります。そんなビーガンフレンドリーな地域で100年以上愛される「Ota Tofu(太田豆腐)」さんの工場インタビューです。
「Ota Tofu」さんは、第二次世界大戦以前に創業し、全米でもっとも歴史を持つ豆腐屋の一つ。近年も勢いは留まることを知らず、2021年にはアメリカの人気料理番組“Top Chef” (*2)の中で使われるなど、ポートランド内外問わず全米でファンを増やし続けています。
今は、一般・学校向けの見学ツアーは全て断っているとか....。そんな中、Ota Tofuでバイトをしているお友達と出会ったことがきっかけで、奇跡的に『KUKUMU』に掲載するインタビューを引き受けてくださいました。
なぜ日本から遠く離れたポートランドで、100年以上も豆腐が根付いているのか?
いつも、日が登る前の朝3時から仕込みをはじめている「Ota Tofu」さん。長年手づくりの豆腐をつくってきた歴史のある工場で、工場長のノエルさんに話を聞きました。
ごみはほぼゼロ。地球にやさしい豆腐づくり
きむりさ:ノエルさん、今日はよろしくお願いします!
ノエルさん:あとで読みますよっ。レポート。
きむりさ:ありがとうございます!そう言われると緊張しちゃいますが、日本の方々に楽しく読んでもらえるよう、精一杯書きます!
ノエルさん:オッケーオッケー! それでは、いきましょうか。
きむりさ:わ! さっそく、大豆だ!
ノエルさん:この大豆は、オハイオバリーとか、ウイスコンシンとか。アメリカでNo.1の産地から取り寄せています。
きむりさ:そうなんですね。
ノエルさん:やっぱり、おいしい豆を買いたいので。運送業者に車で3〜4日かけて、ポートランドに運んでもらってるんですけどね。
きむりさ:ええ!?そりゃ、おいしい豆腐になりますね。
ノエルさん:もちろん、おいしいよ! では、今から豆腐をつくる過程を案内します。まずプレッシャークッカーっていう機械で大豆から豆乳を絞り出します。これは日本のもので、1970年代、昭和のころから使ってます。
きむりさ:ずっと同じやつをですか? すごい......。
ノエルさん:上の部分に大豆を入れ、中のフィルターに通すことで、ソイミルクと絞られた大豆が出てきます。りささん、白いバケツに入ってる絞ったものが何かわかりますか?
きむりさ:これはもしや.....?
ノエルさん:おからです。
きむりさ:わあ。おから、めちゃくちゃ好きです。これも売ったりするんですか?
ノエルさん:これは大体、農場にあげています。
きむりさ:へー。
ノエルさん:牛とかヤギとか、動物はおからが大好き。これを食べると、お肉のクオリティがあがって高く売れるんですよ。だからわざわざポートランド外からも貰いに来ます。
きむりさ:エコですね!
ノエルさん:そうです。あと、アメリカ人はおからを土と混ぜるんですよ。土がハイクオリティになるので。
きむりさ:なるほど。豆腐づくりの過程で出るものは、こうして使い切るんですね。豆腐づくりは、環境にもやさしいことがわかりました!
豆腐は、水が命
きむりさ:豆の他に、豆腐づくりで大切な要素ってありますか?
ノエルさん:水は重要です、豆腐を洗う時とかにも使うので。うちは水代に、月14,000ドルくらい(1$=148円で、なんと200万円以上!)かかっています。
きむりさ:え!?
ノエルさん:豆腐を洗う時も、水道水ではなく、ポートランドで有名な山Mt.hoodの水を使うんですよ。水が命だから。
きむりさ:豆腐は水が命……
ノエルさん:ポートランドは水が綺麗だから、実は豆腐づくりにぴったりなんです。
きむりさ:大豆だけではなくて、水もおいしい豆腐づくりに欠かせないんですね。
一つひとつ、目で、勘で、調節
ノエルさん:先ほどのソイミルクの中に、にがりを足します。これは、日本のブランドから長年仕入れてるもの。
きむりさ:はるばる日本から仕入れてるんですね ……!
ノエルさん:にがりをどれくらいを足すかは、毎回ちがうんですよ。一袋の大豆が60パウンド(=約27kg)なんだけど、同じ60パウンドでも豆1粒1粒のプロテインの量が違うので、それに合わせてにがりを足す。ここで働いてる人が、目で、勘で、調節するんです。
きむりさ:職人技だ.....!
きむりさ:にがりを入れたら、見た目が豆腐っぽくなってきてる!
ノエルさん:ちょっと味見してみなよ!
きむりさ:いただきます。あっ、豆腐の味だ!!!
ノエルさん:でしょ! で、この熱々のものを専用のお玉で掬って、型に流し込みます。
きむりさ:すごい。これも手作業なんですね!
ノエルさん:これを掬うのめちゃくちゃ重いんだけど、今やってくれてる彼はなんなりと持ち上げちゃう。Hey, sing a song!
きむりさ:!?
従業員さん:HAHAHAA……Hey,hey, hey〜〜〜♪♪
ノエルさん:彼、いつも豆腐のラップを歌ってるんですよ。
きむりさ:豆腐のラップ!!(笑)みんな楽しく働けてていいですね。
ノエルさん:ここには、こんな感じでいろんな文化を持った人が働いているのはもちろん、英語が流暢ではない人も自分の得意を活かせるポジションで働いています。
最後まで、大切に
ノエルさん:豆腐づくりもあと少し。まずは、水をきりながら固めます。
ノエルさん:機械でプレスしたら、もう豆腐でしょ。
きむりさ:ほんとだ。
ノエルさん:で、これを洗いながら切ります。
きむりさ:豆腐の形に近づいてますね!
ノエルさん:でしょ。でパッケージに入れる前に、2段階で冷やします。
きむりさ:2段階?
ノエルさん:まずは、ここで氷で冷やす。その後に冷蔵庫にいれて、また3時間ほど冷やします。
きむりさ:大変だ! なんでそこまで、丁寧に冷やすんですか?
ノエルさん:高い温度で箱にいれちゃうと、豆腐が腐っちゃうんです。
きむりさ:なるほど。豆腐は繊細なんですね。
日本にはない2種類の豆腐
きむりさ:いま、木綿豆腐(要確認)をつくる工程を見せてもらいましたが、「Ota Tofu」さんでつくっている豆腐には、どんな種類があるんですか?
ノエルさん:ここでつくる豆腐は、Soft(絹)・Medium(木綿)・Fry(厚揚げ)・Firm・Extra Firm・に分かれています。
きむりさ:豆腐にもそんなに種類が.....!
ノエルさん:その中でも日本にないのが、Firm とExtra Firm です。日本人が知ってる豆腐より硬いんですよ。
きむりさ:アメリカでは、硬い方が好まれるんですか?
ノエルさん:そうそう。なんか歯ごたえがないとダメみたい。
きむりさ:へえー(笑)
ノエルさん:Extra Firmはバーベキューで焼くの食材としても人気。結構おいしいのよ。
きむりさ:豆腐でバーベキュー! お肉を食べない人も楽しめそうですね。お客さんは、日本に関わる方とアメリカの方、どっちが多いですか?
ノエルさん:アメリカの方ですね。
きむりさ:あっもう、ローカルの人が。
ノエルさん:はい。もう圧倒的です。
きむりさ:みなさん、どうやって日本の食べ物である豆腐を知って、食事に取り入れているんですか? 寿司とかラーメンならイメージできますが……。
ノエルさん:実は、豆腐も結構アメリカナイズされてるんです。ヴィーガンの方たちはもちろんだし、いろんな宗教上、肉を食べられない人とかもいるから。他にも、レストランやフードカート、アジア系スーパーとかも沢山。
きむりさ:なるほど。ローカルのお店の人たちも、こぞって買いに来るんですね。
ノエルさん:そうですね。中には、豆腐のベーコンを作ろうと買いにきた人も……
きむりさ:豆腐でベーコン!? 豆腐って想像以上にいろんな食べ方ができるんですね。
ノエルさん:そうそう。
きむりさ:豆腐は決して「日本の食材として」食べるという感覚より、ポートランドで愛されるローカルフードって感じですかね。
ノエルさん:そんな感じですね。そういえば、「地域の人に絶対喜ばれる!」と思って、2年前くらいから厚揚げ豆腐も作りはじめました。これは近くの他の豆腐屋では売ってないと思います。
きむりさ:うわぁ…… 厚揚げ豆腐、食べたいです……。地域に合わせて、新しいことにも挑戦してるんですね。
太田豆腐はなぜ100年以上 ”手づくり”を続けるのか
ノエルさん:ここまで来れば、あとはパッケージにいれて、完成です!
きむりさ:おー! ついに! 意外と材料も過程もシンプルでびっくりしました。今、人生で一番、豆腐が食べたくなっています。
ノエルさん:(笑)。あとで持って帰りなよ!
きむりさ:いいんですか? ありがとうございます! 最後に、この工場見学を通してずっと気になっていたのが、なぜ「Ota Tofu」さんは100年以上も手づくりを続けてるのか?ってことです。私みたいな素人からすると、機械を導入した方が、もっと沢山の豆腐を作れそうだなと思うのですが。
ノエルさん:機械で豆腐をつくると、全部同じ味の豆腐ができる。だから、おもしろくない。
きむりさ:おもしろくない!?
ノエルさん:おもしろくない!
きむりさ:なるほど。やっぱ手作業でやった方が、おもしろいってことですか?
ノエルさん:そう。おもしろい。
きむりさ:じゃあ、つくり手によって、味がちょっと変わったり、硬さが変わったりするのがいいなぁって?
ノエルさん:そうですね。人間も、みんな同じユニフォームだったらつまんないなって。みんな違う服を着てる方がいいじゃん。
きむりさ:なるほど。つくり手に任せられた余白が、おいしさを生んでるんですね。
ノエルさん:太田豆腐が「おいしい」って言ってもらえるのは、やっぱ、手づくりだからだと思うんですよ。ラブが入ってる!
きむりさ:ラブ!!! 今日はいろんな場面から「Ota Tofu」さんのラブを感じました。
ノエルさん:でしょ!
きむりさ:本当に貴重な時間をありがとうございました! またラブいっぱいのおいしい豆腐、買いにきます!
ノエルさん:いつでも待ってるよ!
取材を終えて
インタビュー中も、休むことなく作り続けられる豆腐。それを買いに来る地域の方やお店の方。豆腐を積み、スーパーへと運ぶトラック…… とノエルさんの周りでは、豆腐づくりが絶え間なく行われ続けていました。
私に「ちょっと待っててね!」と言い、走って自ら一人ひとりの声に耳を傾けに向かうノエルさん。
ラブが詰まっているのは、豆腐そのものに留まりません。
さまざまな国の従業員さんそれぞれが心地よく働けるように。
素材をなるべく全て使い切り、環境に負荷がかからないように。
おいしい豆や水、にがりを選び抜き、お客さんに喜んでもらえるように。
新しい豆腐づくりに挑戦し続けることで、地域に愛され続けるように。
豆腐をつくる過程にもラブがいっぱい詰まっていることを、ノエルさんに教えてもらいました。
取材の後、ノエルさんにもらった豆腐は、なるべくそのままの素材の味を知りたくて、醤油をかけただけの冷奴、少し茹でて湯豆腐としていただきました!
どんな人たち、思い、作り方、工夫によって出来ているのかを知った後に食べる豆腐は食べることへの喜びが増していて。より一口ひとくちを噛み締めて食べました。「プロセスごとファンになる」とはこういうことなのかもしれません。
インタビューに協力してくださったノエルさん。
こんなにも素敵な場所を紹介してくださった、エリカさん。
そして「Ota Tofu」で働く全てのみなさん、本当にありがとうございました!
これからも、「Ota Tofu」のラブが続いていきますように!
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写真・文:木村りさ
編集:栗田真希
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