バスの中に七色の虹がかかっている
乗客はいなかった。
ただの一人も。
バスは空っぽの胴体を恐竜みたいにブルンと振って、商店街の脇に停車している。
空は真夏みたいに白く光り、雨に打たれたアスファルトが青空に向かって静かに呼吸していた。
さっきまでの雨がうそみたいだ。
どうしてだろうと、僕は思う。どうして誰も気づかない?
窓からのぞいたバスの中に、虹がかかっていた。
端から端まで座席を埋め尽くして、七色の虹がほろほろと光っている。
運転手さんが昼食のホットドックの包みをグシャっと潰し、ブルンとエンジンをかけると、虹は街路に沿って四つ角を曲がっていった。
西から東へ。
空は曇りから晴れへ。
青空の中をゆっくりと、虹が信号を曲がる。
横断歩道であくびをしていたお母さんがようやく気づき、そっと虹を指差して、隣の子どもに微笑んでみせた。
「ほら」って、僕には聞こえない声でささやいて。
指差した先には、小さな子どもたちの傘。
色とりどりの傘が、幼稚園バスの座席いっぱいに開いて干してある。
虹を乗せたまま、運転手さんは静かにアクセルを踏んだ。