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誕生日の子どもが知りたかったこと

4歳の娘が泣いている。
ひっくひっくと泣きじゃくり、目をこすりながら僕の布団に入ってきてこう言う。

「起きてって言っても、お母さん起きないの」

枕元の時計を見ると、朝の5時。
なんでこんな時間に?

あーそうかと僕は思う。
無理もなかった。
今日はこの子の誕生日なんだ。

「5歳なの」
そう言って、娘は僕の胸にすとんと頬を押しつけてくる。
「おとうさん、わたし、まだ生まれてないの?」

「生まれてるよ」と、僕は笑って言った。「生まれてピンピンしてる」

「でも、お母さん起きない」

「お祝いしてほしいんだね」

「そう」
娘はまたひっくひっくと目に涙をためた。

「じゃあさ」
と、僕はハッピー・バースデイを小声で歌う。
ささやくように、胸に頬寄せた子にだけ聞こえる声で。
「ディア、○○〜♩ ハッピバースディー トゥーユー…」

娘は不思議そうに首を傾げ、「ちゅーゆ?」と聞いた。

「トゥーユー」
と、僕はハッピー・バースデイよりもっと小さな声で言う。
「生まれてきてよかったね」

「…キツネちゃんの匂いがするよ」

「え?」

「お父さんの布団はキツネちゃんの匂いがする」

どこで狐の匂いを思い知るに至ったんだろうと僕は首を捻ったが、まあいい。
「そうかあ。じゃあ、おまえは子狐だね」

親子の狐は丸くなって抱き合い、午前5時の薄明かりの中でこれまで世界に愛された数を指折り数えてる。
おめでとう。生まれてきてよかったねって、ただあたりまえにあたりまえのことをお祝いしたかった。
そんな簡単なこと、僕らいつの間に難しくしてしまったんだろう。

「それにしても眠いなぁ、まだ5時だもん」
僕はふわぁとあくびして言った。
「もう一回寝たら、明日になっちゃうかなぁ」

娘はガバッと顔を上げて聞いた。
「わたし、もう生まれた?」

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