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UEFAによるプロサッカー選手の栄養事情とガイドライン その4

このシリーズの最後です。
最後に残った項目はこれです。

  1. レフリー達の場合

  2. ユースベレルの場合

  3. まとめ

レフリー達の栄養事情

サッカーファンにとって良いイメージを持たれることが多くないレフリー達ですが、試合を成り立たせる上で最も重要な職業の一つです。試合中のレフリーの運動量は時に最大心拍数の80−90%、最大酸素摂取量(VO2Max)は70−80%に達しカロリー消費量は1200kcalにもなります。血中の乳酸塩の濃度は激しい運動と不十分な休息間隔でグッと上がります。(めったに)体の接触こそないものの、試合のテンポに運動量を左右されるので身体的ストレスも決して低くありません。試合中の運動量はミッドフィルダーと同じくらいで、スプリントの総合距離は低めですが、スプリントの総合時間はミッドフィルダーより長いのが特徴です。審判の運動量と栄養管理の関係はまだ研究されていないので、現状では選手と同じガイドラインを使っています。一般的にレフリーの試合中のカロリー消費量は選手のものに比べると低いですが、普段から炭水化物の摂取量は個人のトレーニング量に比例して調節する必要がありそうです。

ユースレベルの場合

18歳以下の選手の栄養管理で大事なのは、実際の年齢と身体年齢のニーズが必ずしも一致しないということを頭に入れておかないといけないことです。成長期に入っている選手のカルシウムとリンの摂取量と脂肪の燃焼率が大人より高いということも覚えておくと良いでしょう。またユースレベルの選手達は精神的にもまだ未熟で食事に対する意識が薄い傾向にあります。フードファーストの概念をしっかり教えてあげると選手としての成長にもプラスになります。

エネルギーの依存

この研究で実施されたアンケートではサッカー選手はレベルや性別に関係なく必要エネルギー量を摂取できていないということが判明しました。栄養不足の状態が長く続くとパフォーマンスの低下だけでなく、健康や成長の妨げにもなる可能性があります。特に試合当日や激しいトレーニングをする日には必要量を満たすことにフォーカスしなければいけません。近年プレミアリーグのU12ーU23でbody compositionとRMR(動かなくても消費するカロリー消費量)の変化の調査を行って、12−16歳のグループでFat free mass(脂肪以外の体重)とRMRが~400 kcal/day増加しているということが判明しました。また年齢の増えるにつれてTEE(一日の総カロリー消費量)も増加することもわかっています。U18でTEE = 3586+-487 kcal/dayなのに対し、U15では3029+-262 kcal/day, U12では2859+-265 kcal/dayという結果でした。特にユースレベルでの必要カロリー量のモニターは怪我のマネージメントや身体の成長を促す上で大変重要なことも覚えておきましょう。

マクロニュートリエント、マイクロニュートリエントサプリ

子供と大人では必要な炭水化物の量にあまり違いがありません。トレーニングの負荷にもよりますが、中程度の負荷でのトレーニングでは推奨摂取量は~3-6 g/kg BM、高負荷では~6-8 g/kg/ BMです。トレーニング中も炭水化物が60g/L入ったドリンクを飲むと疲労を軽減できる可能性があるというデータがあります。

プロテインの必要摂取量は子供でも1.6 g/kg BMですが、近年はサプリのおかげで足りなくなることはあまりなくなりました。大事なのは摂取する時間とタイミングの調節です。

脂肪は一日の総カロリー量の25−35%が目安にして、コレステロールは一日に300mgを超えないように注意しましょう。活動量の多いユースの選手の場合は摂取量が多少多くなりますが、一般人と比べて多く摂る必要性はあまりないとされています。食に対して正しい教育がされてない選手の場合、意図的に脂肪の摂取を怠ることで鉄分、カルシウム、脂溶性ビタミンが欠乏する恐れがあります。子供のカルシウム摂取量は1200-1500mgで、大人は700mgで、女性(特に子供)アスリートの場合ビタミンD不足で骨にダメージが生じることもあるので、基準値(400-600IU/day)はしっかり守りましょう。

鉄分も身体の成長過程で非常に重要な栄養素で、不足すると長距離競技のパフォーマンスに影響が出る恐れがあります。推奨摂取量は9−13歳で8mg, 14−18歳では11-15mg/dayでビタミンCと一緒に取るとより効率よく吸収されます。カフェインは鉄分の吸収を阻害するので取り過ぎに注意しましょう。血中の鉄分量はSerum ferritinとBlood heamoglobin concentrationでチェックすることができますが、あからさまな欠乏が確認されない限りはサプリはあまり効果はなく、むしろ取り過ぎに注意しましょう。

水分の補給も大事で、体重の1−2%減でサイクリングやバスケットではパフォーマンスに影響が出るという研究結果があります。連続した試合があるトーナメントでは特に注意が必要なので、尿の色なので常にチェックする。

まとめ

この論文を読んでみて個人的に思ったことは、選手たちにとって栄養的アプローチにはまだまだ改善の余地があることです。
特にエリートクラスの選手ともなるとプライベートでのコントロールが難しくなる傾向があります。これはどのスポーツでも起こっていることで、MLBのあるエリート選手が遠征中は宅配ピザしか食べないなんてケースもあります。

エビデンスに基づいた知識も大事ですが、一番大切なのはそれをどうやって選手たちに伝えるか。
いくら良いことを言っても相手が聞く耳を持ってくれなければ全く意味がありませんね。
そのためにも選手たちとの信頼関係の構築がマストになるのではないでしょうか。

〈参考文献〉
UEFA expert group statement on nutrition in elite football. Current evidence to inform practical recommendations and guide future research

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