「じつは知らなかったこと」への旅
TOK(Theory Of Knowledge)という言葉がある。
国際バカロレアのカリキュラムで大事にされている教育テーマのひとつらしい。
驚いた。
「知ること」について知る。問いを投げかける。
これこそ、「次世代の教科書」が読者へ提供したい一つの究極的な価値だ。
答えだと思っていたものを疑ってみる、ということは、自分が知っていると思っていたことに「じつは知らないのかも?」という疑問をぶつけることだ。
それは、物事の本質にたどり着くために、今まで進んできた道のりを振り返ってスタート地点に立ち戻ることだともいえる。
言うのは簡単だが、かなり身を削る行為だ。
なにせ、一度通った道をわざわざ歩き直していかなければならない。
この視点を持つと、私たちが日常で「当たり前」としてきた様々なことに問いをぶつけられてしまう。
なぜ学校に通うのか。
なぜ毎日遅くまで働くのか。
なぜ人は社会で生きなければいけないのか。
なぜ人は言葉でコミュニケーションするのか。
なぜ空は青いのか。
なぜ、なぜ、なぜ……。
知識とは何かを探るとは、気の遠くなるような「問い」の奔流に自分をさらすことだ。
たいてい、そんな億劫なことを忙しい毎日の中で始めようなどという人はいない。
だが、そこからしか得られないものがたしかにある。
今まで見向きもしなかったような脇道を見つけて、まだ誰も発見していない豊かな大地へたどり着くかも知れない。
あるいは、子供の頃になくしたと思っていた宝物を拾えるかも知れない。
忙しさの中で見逃していたものが、じつは自分にとって一番大切なものかもしれないのだ。
*
TOK。決まった答えがない問いに向き合うことができる柔軟さと強さ。
これは国際的に活躍する一握りの人たちだけでなく、あらゆる人が持っていて損はない能力だと思っている。
なぜなら、本質的に人間とは変化していくもので、人生に決まった答えなど存在しないからだ。
そして、そんな人間から生まれた知識にもまた、決まった正解など存在しない。
逆に言えば、どんな答えでも私たち自身で創っていけるのだ。
それは、いままで答えだと思っていたものに「問い」をぶつけることから始まる。
私たちの知識を、疑ってみることから始まる。
それは苦しいことであると同時に、身を震わすような気づきや発見へ向かう旅路でもある。
これからの時代に必要なのは、誰しもが自分自身の「じつは知らなかったこと」へ向けて旅に出ることができる余裕なのではないだろうか。
(「次世代の教科書」編集長_松田)
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