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日本の起業しやすさが93位になった理由と、設立プロセス見直しの話 #会社設立 #起業

昨日のキャッシュレスの話が「note編集部おすすめ記事」に入り、結構読まれたので、調子に乗ってもう一記事いきます。

ちなみに、キャッシュレスアワードも、あと一週間のチャンスなので、ぜひご参加ください

キャッシュレスの話が連日メディアを賑わせている裏で、今月末からひっそりと新しい会社設立のプロセスが開始されようとしています。

実は、去年は会社設立に関するサービスを担当していたので、キャッシュレスと同様に会社設立については気になるトピックです。

ということで今回は、会社設立の状況とプロセスについての疑問点について書いてみます(長いです)。

目次
・この1年の設立ニュース
・会社設立の評価の仕方
・日本の会社設立手続きの実情
・評価軸から考える、設立のしにくさの解消法
・株式会社に必要な、公証役場での手続きも争点に
・今後、多くの起業家の負担が軽くなるよう

この1年の設立ニュース

この1年、会社設立を簡素化するための動きが話題になりました。

去年から本格的に議論が進められ、以下のとおり検討会の議事録も残されています。

長い間、日本の会社設立のプロセスは大きく変わらなかったようで、今回の抜本的な見直しは、今後数年間の起業環境を規定する大胆な試みです。

西村:会社法が改正されて、昔に比べれば、起業のハードルは確実に下がっているということですね。僕の場合、資本金1000万円なんて絶対用意できなかったので、会社法施行前だったら起業できてなかったですね。会社設立の手続やプロセスは簡単になっていないんですか?

伊藤:実は、あまり簡単になっていません。2007年に「電子公証制度」がはじまって、定款の電子認証を受けることができるようになりました。ただ、これは原本が電子データになったことにより、印紙代を節約できるというメリットがあるくらいで、依然として公証役場に出向く必要があります。インターネットで手続が完結するというわけではないんです。また、法務局に提出する書類も押印した紙の原本を提出する必要があるなど、紙文化・ハンコ文化から脱却するのはまだまだという感じです。
「会社設立って面倒なイメージがあるけど実際どうなの?」 企業法務のプロに聞いてみた:経営ハッカー

去年時点で、日本の「起業のしやすさ」は100位以下となりました。日経新聞にも取り上げられて話題になったのも記憶に新しいです。

今年はニュースも少なかったのですが、先月、世界銀行のランキングは更新され、93位になっています。実質、制度は変わっていないため、日本の現状の設立プロセスは100位前後の実力なのでしょう。

この1年、会社設立プロセスの見直しが進められており、特に話題になったのは、今年4月に出た「会社設立が10日→1日になる」という記事です。

短縮化をした事自体はポジティブに世の中に受け止められました。

しかし、設立の実態を知る人の間では公証役場での手続きが残ったことは残念だと捉えられています。

事態は収まることなく、以下の記事の大杉さんを始めとした有識者から、熱のこもったパブリックコメントが寄せられました。

2.意見
 株式会社や一般社団法人などを利用して行われる,大規模な詐欺やマネー・ロンダリング(資金洗浄)を予防することの必要性については,改正案やとりまとめに異論はない。
 しかし,改正案は,目的達成にほとんど役立つものではなく,また起業の阻害という副作用をもたらすことに照らして,妥当であるとはいえない。よって,改正案に反対する。
おおすぎ Blog:「公証人法施行規則改正案」のパブコメにご協力ください

そして直近のニュースが、上記のTweetで紹介されている「新たな定款認証制度」です。

「実質的支配者となるべき者が、暴力団員及び国際テロリストの場合は、自ら公証人に申告する」制度だと、私は理解しています。

会社設立の評価の仕方

新たな認証へのツッコミはいったん我慢し、「起業しやすさ」の評価方法を紹介します。

各メディアでも、検討会でも、世界銀行のランキングが標準的な指標として扱っています。

内容は日本経済再生総合事務局(2017/9)「世界銀行 Doing Business 2018による日本の評価」に日本語で説明されており、以下の通り「起業のしやすさ」は手続き数、時間、コスト、最低資本金の4項目で評価されます(世界銀行サイトでは評価方法についてページもあります)。

日本は法人設立の順位が突出して低く、昨年は100位以下に転落しました。会社設立が「日本のビジネスのしやすさ」の総合点を引き下げていることになります。

ちなみに、世界各国の起業しやすさのランキングと評価は世界銀行のページ(英語)で見られます。

日本の会社設立手続きの実情

世界銀行サイトから、細かく日本の評価の理由も見られます(日本はここから)。悪い意味で突出しているのが、「手続きの数」です。日本では8つもの手続きがあります。

8つの手続きを、以下に翻訳しました(「管轄」は私が追加)。

(なお2017年の調査では、3つ目に「銀行口座を作る」が入っており、9つの手続きになっていました。なぜ今年抜けたかはわかりませんが、実質的には設立時に個人の銀行口座は必要です。)

評価軸から考える、設立のしにくさの解消法

手続き数、時間、コスト、最低資本金で評価されることを前提に、ランキング向上の手立てを考えると、法人印鑑の撤廃と各役所への訪問手続きがなくなると、かなり負担は下がりそうです。

1.法人印鑑の撤廃

上の表を見ても、法人印鑑の作成は、日数もコストもかかる手続きです。

そもそも印鑑の実効性に疑問がある上、他の国の設立プロセスでは「会社印の発行」という項目は東アジア以外には見当たりません。

実効性に疑問符が付き、多くの国で採用しておらず、コストも時間もかかる印鑑は、日本の設立のしやすさにとって大きなネガティブ要因になっています(無くなれ)。

印章保護の動きをしている方たちも出てきたようですが...。

2.官庁行脚の一本化

また、上の手続きでは、3ステップ目にある法務局での手続き以降、各役所に出向いて様々な書類を提出しなければいけません。

各役所での手続きはそれぞれ違うのですが、共通の書類もあります。

法務局では、各役所に提出するために、同じ書類を、役所の数だけ自分で発行して、持参します

現在、検討会では以下のように「これを一本化(かつデジタル化)しましょう」という提案もされています。

現状の設立後手続きと、今後目指すサービス(法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会「法人設立手続のオンライン・ワンストップ化に向けて(平成30年5月)」より)

仮に、上記の2つが実装されたとき、先程の手続は以下のように大分スッキリします。

「起業のしやすさ」で20位の台湾(世界銀行のページ)が、手続が3つ、時間が10日です。この2つが実現すれば、日本のランキングは大幅に向上するでしょう。

株式会社に必要な、公証役場での手続きも争点に

実は、世界銀行のランキングは合同会社を設立する場合のランキングです。日本での新規設立法人は、70%が株式会社です。

法人格別の社数では、株式会社が9万1,694社(構成比69.4%)で全体の約7割を占めた。次いで、合同会社が2万7,039社(同20.4%)、一般社団法人が6,379社(同4.8%)、特定非営利活動法人(NPO法人)が2,091社(同1.5%)、医療法人が1,291社(同0.9%)と続く。
2017年「全国新設法人動向」調査 : 東京商工リサーチ

日本の実質的な「起業しやすさ」を改善するには、株式会社の設立を簡単しなければなりません

株式会社の設立には、合同会社の手続に加え、公証役場に行き、追加コストも合計15万円ほど必要です。

株式会社設立の手順(「freee みんなの会社設立実態_2017」より)

「公証役場」や「公証人」は、耳慣れない言葉かもしれません。

公証人は、会社設立においては、会社の憲法のような「定款」を認証する役目を担っています。かなり豊かな公的業務の実践経験をお持ちの方が多いようです。

1989年度は、全国530人の公証人のうち、判事経験者150人、検事経験者240人、法務局長など法務省職員OBが140人を占め、弁護士出身者は1人しかいない。
公証人 - Wikipedia
'12年からの5年間で、検察官は117名が応募し116名が任命。裁判官は92名が応募し92名全員が任命された。対して司法書士などは21名応募で1名しか任命されていない。
実働10分で5万円稼げる天下り先「公証人」を知ってますか(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(2/2)

いくつかのニュースでも、この「公証役場での手続き」が争点になっています。

私が参加した検討会でも、「公証役場で認証→法務局で受理」という手続は一つにできないか、という発言がありました。

(向井内閣官房内閣審議官)
民間から見れば、公証人も登記所もどちらも官であって、違う必要など何もないわけです。民間からすれば、それだったら登記所に公証人がいて、そこで電子署名を受けつけて1日でやればいいではないかという話になるわけです。
平成29年11月 7日 「法人設立手続きのオンライン・ワンストップ化について」議事要旨p.23

そこで、「モデル定款」を採用し、スキルの高い公証人には複雑な書類の確認にフォーカスしてもらおうという提案がなされています。

平成29年11月 7日 法人設立手続きのオンライン・ワンストップ化について 事務局提出資料p.12

その会議での各参加者の発表資料を見比べたり議事要旨を見ると様子がよく分かります。法務省側は反対側として不正会社が設立されるリスクなどの問題点を主張していました(法務省資料)。

その後の議論は割愛しますが、以下リンクから見られる最新の議事録でも法務局の反対姿勢は変わっていないようです。

そして最近、反社会的勢力による会社設立を防止するために、先の通り日本公証人連合会によってこの11月30日から「新たな定款認証制度」が開始されます。

Q1. 定款認証の方式が変わるそうですが、何が変わるのですか。
この度の改正により、株式会社、一般社団法人、一般財団法人の定款認証の嘱託人は、法人成立の時に実質的支配者となるべき者について、その氏名、住居及び生年月日等と、その者が暴力団員及び国際テロリスト(以下、本Q&Aでは、まとめて「暴力団員等」といいます。)に該当するか否かを公証人に申告していただくように変わりました。
7-4 定款認証 | 日本公証人連合会

まさかの自己申告制度になっていて、このようなおおよそ効力の無さそうな新方式のために該当者ではない大半の設立者が提出する書類が増えてしまいました。

今後、多くの起業家の負担が軽くなるよう

かなり長くなりましたが、会社設立プロセスの流れや要点はかなりカバーできた気がします。

この記事によって、日本の起業プロセス改革を応援する人が生まれると嬉しく思います。

突然ですが、去年、1,000社の会社設立実態を調べて集計したことがあります(以下はその時作った資料)。

この調査を通じて、多くの起業家のコストや迷いが会社設立手続きに費やされていることを実感し、会社設立関連のサービスからは離れた今も会社設立プロセスのニュースには関心を持ち続けています。

ニュースを見ているだけの立場になっても、変革現場での大変さや苦労は感じる一方、今年3月の事務局の提案は課題感も含め非常に魅力的な成果物であり構想だと考えています。

設立プロセスの話題は、既存の非効率なやり方から長い間変われないために世界から取り残されつつある(逆に言うと、伸びしろが大きい)という点で、キャッシュレスと似ているのかもしれません。

会社設立プロセスの刷新には、キャッシュレスと同様、日本のビジネス環境にとって大きな価値があるはずです(無理やり?w)。

立場は変わっても、変革を進めている皆様を応援しています。

※参考:キャッシュレスへの想いについては昨日の記事に書きました

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