見出し画像

私と祖母と着物と

両親の離婚により、中学2年生から大学を卒業するまで、祖母の家に、祖母、母、妹、私の4人で暮らしていた。

その期間、私は祖母のことを、日本語が喋れる宇宙人だと思っていた。

聞いたことのある話を何度も繰り返し話してくるし、一緒に暮らす上で守ってほしいルールを伝えてもおかまいなしだし、カチンとくるような一言を連発するしで、とにかくストレスが大きかった。

どれも祖母には悪気がなく、余計にタチが悪かった。

私は祖母を世間の常識が通じない、宇宙人だと思うことにし、極力距離を置き、衝突しないようにしていた。

大学卒業後、5年間東京で働き、去年の5月に地元・福岡に転勤になった。新しい何かを始めたいと思う中で、祖母の家に着物がたくさんあることを思い出し、いち瑠へ体験に行った。

体験教室では、長襦袢と着物を着て、着物を畳むまでを教えていただいた。

講師の方の着物を扱う所作の一つひとつが大変美しく、私も物を大切に扱える、品のある女性になりたい!とその場で入会を決めた。

クラスが始まる前に、サイズの合う着物があるか確認するために祖母の家を訪ねた。

10着ほどの着物を広げ、羽織ってを繰り返し、私の家に運ぶものと祖母の家に置いておくものを選り分けた。

たとう紙にしまうため、体験教室で教わった通りに着物を畳んでいると、「亜矢ちゃん、よう畳み方、知っとるね。綺麗に畳んですごいじゃない」と祖母に声をかけられた。

「枚数多いけん大変やろ。おばあちゃんも手伝っちゃるけんね」と、足が悪いにもかかわらず、畳に座り、2人で着物を片付けることになった。

祖母は、講師の先生と全く同じように綺麗に着物を畳んだ。私への説明の仕方や、難しいポイント・コツも教わったことと全く同じだった。

驚いた。

今まで常識が通じず、同じ言語を喋れるはずなのに、何一つ理解されないし、理解できなかった祖母。

そんな祖母と着物に触れるという同じ体験・時間を共有している感覚が新鮮だった。

長く続いた祖母との心の距離を縮めてくれた着物。

祖母が大切にとっておいてくれた着物を、私も大切にし美しく着た姿を祖母に見せたい。