9年越しの恋人
恋人ができた。
中学生の時に片思いをしていて、卒業間近のバレンタインデーに手作りチョコレートを渡して告白し、ごめんと振られた彼が、私の恋人になった。
去年の夏に私から連絡を取って、年末から月に1回ずつ会って、そして今年のバレンタインデーに私から9年ぶりの愛を伝えた。
最初は、大人になった彼の姿を見てみたかったのもあるし、大人になって化粧もファッションもそれなりになった私なら、もしかしてがあるかもしれない、あったらいいなと思っていた。
もしくはまた振られたとしても、この9年、彼の亡霊を見ながらろくに好きな人も作れなかったかわいそうな私にけじめを付けてあげたかった。
黒髪で眼鏡で、肌が白くて、たれ目で、優しくって楽しい人が好きなのか、それともあの頃の彼がそうだったからそれが私の理想になってしまったのか私にはもう分からなかったのだ。
もし条件的に好きなだけなら、彼の呪縛を解き放って似たような人を好きになることも出来るかもしれないし、彼のことが好きで条件化してしまっているならきれいさっぱり振られて全然違う人を好きになりたかった。
恋を知ってからあまりにも時が経ちすぎてしまっているのに、私の気持ちも、思い浮かぶ彼の姿も永遠に15歳の少年のまま止まってしまっていた。
私ももう、15歳の少女じゃないのに。
24歳になった私たちは再び連絡を取り合って、再会した。
黒髪で眼鏡で、肌が白くて、たれ目で、優しくって楽しい彼は背が伸びて顔つきも大人っぽくなっていた。
心臓の音がいつもより大きい。
そんな彼の前に、化粧を知って、髪を巻いて、甘ったるい香水をふんわり纏ったあのころとは全く違う私がいる。
垢ぬけない田舎の小娘だった私は、相変わらず田舎ではあるけど小奇麗なお姉さんになっていた。多分彼より、私のほうが少しだけ汚い大人になっていた。
彼ともう少し早く再会していれば私はもう少しきれいでいられただろうか。
バレンタインデートのつもりで会った帰り道に、いつも通り家まで送ってもらいながら可愛い缶に入ったチョコレートを手渡した。
「女の子がチョコレートを渡す意味、知ってるでしょ?つまりそういうこと」
そんな可愛くない言葉を選んだ私に、彼は少し驚きながら私とは違ってとっても素直に気持ちを言葉にしてくれた。
実はなんとなく、私たちの思いは重なっているような気がしていたけれど、私としてはバレンタインにチョコレートをあげたなら、またホワイトデーに会える約束が作れると思って、このタイミングで匂わせたのだ。
次に会う日まで、約1か月をかけて私たちの関係性に答えを出してくれればいいし、それで振られたとしても今年25歳を迎える私にひとつの区切りをプレゼントできると思っていた。
丁度会い始めてから3か月。
いろんな意味で頃合いかな、と。
結果的に、私は9年越しの初恋であり片思いであるこの恋を実らせた。
ただ、中距離恋愛の私たちは、お付き合いを始めたとしても月一でしか会わないし、連絡も2日に一回くらいしかしない。
おはようやおやすみなんてないし、電話だってしたことがない。
彼のこと、まだ何にも知らないし私の秘密も沢山ある。
9年間の空白は多分9年かかっても取り返せないし、これからも私たちは過度にお互いを知りすぎない距離でただ、隣にいるのだと思う。
私を好きになってくれてありがとう。
それから、今加藤ミリヤの失恋ソングを聞いて大号泣してる15歳の私を思いっきり抱きしめて、この文章を見せてあげて、とっておきの秘密をこっそり教えてあげたい。
君の涙は9年経ったら笑い話になるし、なんなら君の告白があったから大人になった私の恋がスムーズに進んだんだと思ってるの。
勇気を出してくれてありがとう。
彼を好きになってくれてありがとう。
君が夜中までキッチンで格闘したチョコレート、「美味しかった」って。
大人になった彼がくれた最初のプレゼントを君にあげるね。
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