見出し画像

サーチファンド#03:データでみるサーチファンドの広がり、実績、リターン

サーチファンドの概要についてはこちら

サーチファンドの広がり

1984年の最初のサーチファンドの後、アメリカを中心に約150本のサーチファンドが組成されている(※2014年調べ。その後も伸びは加速しているらしい)。
組成されたサーチファンドは、いったいどのくらいの確率で企業買収に成功したのだろうか。また、買収対象となった中小企業はどのくらいの規模で、投資後はどのくらいのリターンが実現されたのだろうか。

画像1

初回に説明したように、サーチファンドの組成とは当面のサーチ活動の資金がコミットされたに過ぎない。その後、魅力的な企業をみつけ投資家を説得できなければ、買収には至らずサーチ活動は終了することとなる。

実際には、組成された150本のサーチファンドのうち買収まで実現したのは約60%。残り40%のうち、約半分は継続サーチ中(当時)だが、約半分はよい投資先を見つけられずにサーチ活動を断念している。
この結果の良否の判断は難しいが、個人的には常にソーシング(案件発掘)が難しい企業買収の世界においては、サーチファンドの買収実現確率は高いといってよいと思う。

買収の成功確率が高い理由は、サーチファンドの対象とする中小企業が、M&Aの市場でブルーオーシャンであるからだと思う。一般的に、10億円の企業の投資・経営と、1000億円の企業の投資・経営とで、必要な労力が100倍違うかというとそこまでの差はない。つまり大きな企業に投資する方が効率が良い。PEファンドのターゲット企業が大きくなりがちな理由はここにある。(最近は通常のPEでもターゲット企業の規模は小さくなってきているが、それでも企業価値にして数十億円はある)
一方サーチファンドが対象とする企業は、企業価値で一桁億円というケースが一般的である。組織的なファンドとしては割に合わなくても、個人としては十分魅力的なリターンが得られる数億円の企業をターゲットにできることで、これまで組織的なファンドが手を出しづらかったブルーオーシャンの市場で戦うことができ、サーチファンドの買収実現確率が高く推移していると思われる。


サーチファンドの規模、サーチ期間、チームの人数


サーチファンドの対象は中小企業であるが、具体的にどのくらいの規模の企業が買収対象となっているのだろうか。
アメリカの事例では、売上=$6million、企業価値=$8millionというのが平均的な買収先企業の規模である。現実的に、サーチャー個人に投資される額としての妥当性、経験の浅い個人がマネージできる企業規模の妥当性などから、このあたりに落ち着いてきているのかもしれない。

ちなみに買収実現までのサーチ期間は、ファンド組成時の契約上(サーチ資金をコミットしてもらっている期間)は一般的に2年以内、実績データとしては平均18カ月である。
また、サーチファンドは主に一人で立ち上げることが多いようだ。たまに二人共同で立ち上げるケースもあるが主流は一人。人数によって特に成功確率に違いは見られないらしい。

画像2


サーチファンドのリターン

次に、サーチファンドによる買収後の実績つまり投資リターンについての傾向も見てみよう。
リターンについての情報が得られた案件のうち、約20%で5x以上のリターン、また40%で5x未満だがプラスのリターンと見込まれている。一方、約10%の案件では全額ロスが見込まれている。
一般的なPEファンドと比較し、5x以上のホームランの割合が高い一方、全額ロスになる割合も比較的多い印象である。ベンチャー投資とまではいかないが、伝統的なPEと比較するとハイリスクハイリターンといったところだろうか。強いて全体の平均としてみると、比較的高いリターンを出しているようだ。

画像3

このようにアメリカでは、広がりとしてもリターンとしても、サーチファンドの仕組みは一定の成功を収めている。早い段階でAsurionという大きな成功事例があったこと、サーチファンドの成功者によるエコシステム育成が行われたこと(※別の回でまとめる予定)が、マーケットが大きく成長した要因であろう。

上記のデータは、あくまで過去の実績をまとめただけなので、こうでないといけないという決まりはない。今後サーチファンドを目指す人は、こういったデータを参考にしつつ、自分なりの投資ストーリーを描いてよい企業に巡り合ってほしいと思う。

---
※ちなみに今回のnoteの情報ソースは、主にスタンフォードGSBの研究を参考にしている。2014年当時に作成した分析/スライドをほぼそのまま載せており、note用にアップデートはしていないので悪しからず。
より詳しく知りたい方、最新の情報を知りたい方は、直接スタンフォードの研究を参考にされるとよい。
https://www.gsb.stanford.edu/faculty-research/centers-initiatives/ces/research/search-funds

---
サーチファンドに関する他のnoteはこちら
01:個人が中小企業をM&Aする新しいアントレプレナーシップのかたち
02:サーチファンドのはじまりと成功事例
04:サーチファンドに必要なバックグラウンド、スキル
05:私の経験(1/4) -きっかけ、投資家まわり
06:私の経験(2/4) -投資先企業探し
07:私の経験(3/4) -ファンド設立・運用の実務と意味
08:私の経験(4/4) -ヨギーとの出会い、投資実行、経営
09:日本でのサーチファンド浸透のために

追記:
サーチファンド・ジャパンを設立しました


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?