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Caviar d’aubergines / Eggplant caviar 茄子のキャビア


初めてこのディップを口にしたのはロスアンジェルス(でも南仏名物料理)

シェリー酒、クラッカーと共に小さなトレイで手ずから用意してくれたのは父が長年一緒に仕事していた(日本在住の)米国人のフィアンセで(どちらも会社経営者だったので本拠地は変えられず、壮大なスケールの遠距離恋愛に感嘆させられた)レストランでの食事に誘ってくれて、予約までまだ時間があるからと自宅で食前酒しましょう、と。

地味な色合いの見たことのない物体…

恐る恐る試してみたら…止まらなくなった。なんて美味しい!

レシピを訊ねたら、「ちょっと待ってて。自分で作ったんじゃないから」とくすくす笑いながら、キッチンに戻って空き缶を持って来てくれた。イタリアからの輸入品だという缶に貼られたラヴェルにはeggplant caviar。世界三大珍味の魚卵のキャビアではないけれど、それを意識してつけられた名前。

南仏料理のひとつで、今では自分で作る(なんてその時は思いもしなかったけれど)。夏になると焼き茄子にするかこのキャビアにするか迷うぐらい、身近な存在。

久しぶりに作って、色々なことを一度に思い出して、温かい気持ちになっている。1人で異国で過ごしたのは初めてではなかったけれど、気楽な旅行での滞在ではなかったので、緊張の連続だったから。店ではなく、ひとの住まいでのひとときは、本当にオアシスみたいだった。

東京の広告代理店勤務時代、初めての海外出張での8月のカリフォルニアだった。企画書が通ったとたん2週間後には「飛んでこい」という嬉しい展開で、しかも現地5日で早朝深夜頑張れば何とかミッション完了!と算段できたのに、タイミング悪く(運良くともいう)全便満席で8泊しないといけなくなった。

つまり、頑張れば最終日はほぼ自由。
と弾む心で成田に到着して、チケットカウンターに受け取りに行ったら(当時はまだeチケットなんて存在しない)、責任者の方が出て来た。


「大変申し訳ないんですが、お客様の乗るはずだった便は先程離陸いたしました」

旅行会社の案内書では午後7時発だったのが、17時の間違いだったと知る。

ロスアンジェルス行きは全て満席ばかり、サンフランシスコ経由なら2時間後発のビジネスを取るという提案を悪くないと思っていたら、乗り継ぎ6時間待ちが待っていた。

(つづく)

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