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パチンと弾けて

新年から仕事で東中野へ行く機会があった。

正直東中野で降りる…というより電車が停車すること自体が大学生以来である。

というのも東中野は中央線が停車しない。

千葉方面に住む私にとっては西東京に行くには間違いなく東京駅、あるいは御茶ノ水駅で中央線を利用するため、東中野は意識して総武線でひたすら鈍行しなければ辿り着けない場所となっていた。


約15年振り。


その時は当時付き合っていた彼女の卒論用にとポレポレ東中野でバックドロップ・クルディスタンという映画を観た。


それは私の知っている映画でもなければ映画館でもなく、ただただ彼女に映画に行こうと誘われて東中野まで着いていったに過ぎない私は、高低の無い座席や聞いたこともない野本大という若い男性の挨拶を聞き、正直、騙されたと感じた。


けれども、日本に難民として滞在するクルド人一家に野本監督自身が3年間に渡り密着することで、日本・トルコひいては世界におけるクルド人の現実と問題、その背景を見事に表したドキュメンタリーな内容は、私の心を激しくノックする紛れもない名作であり、忘れられない一本となった。


「生きていればまた会えるから」


映画のラストシーンでクルド人一家の父親が咽び泣く野本監督にそう諭すシーンは、やはり今思い出しても感慨深い。


現代に戻り久々にポレポレ東中野を覗いてみた。


当然ながらバックドロップ・クルディスタンは上映されていなかったが、そのなんともいえない入りづらさと映画館とは思えない建物の出立ちは、あの頃から変わっていなかった。


上映ラインナップを見てみると、大島渚の息子であり、"なぜ君は総理大臣になれないのか"の大島新監督の新作が公開されており、監督の舞台挨拶もあるという。

せっかくだから仕事をサボって観てしまおうかと考えたが、生憎既にチケットは売り切れだった。

そりゃそうだ。"なぜ君は総理大臣になれないのか"はめちゃくちゃ面白かったし、"香川1区"だって素晴らしかったのだから。


それにどうせ1月4日の12時半の回をわざわざ観にくる奴らなんてわかったような顔して昭和歌謡を語る若者か、絶対将来活かすことのないレポート課題に励む女子大生くいだろう。


多分、あの日の私に与えられた座席は、もうここには無いのだ。








2023年末、ある男性が不思議な体験をしたので叙す。


彼にとってその年は何をやっても結果が出せず何も成せず、反面とにかくあらゆるものを失ったり、傷めたりするものであった。2023年を表す幹事1文字を"不"としてしまうほどに。

この流れをここで断ち切りたい。

そうして厄祓いと称し、彼は大井町のメンズエステへ行った。

何度も利用したことのある店舗だったが、年末のせいか予約の電話対応の相手の声に聞き覚えはなく、また、指定されたワンルームマンションもいつもとは違う場所だった。


オートロックすらないマンション。


インターホンを押し、扉が開き中に入ると小柄で明るい金髪の若い女性が『よろしくお願いします』と招いた。


彼は年上の熟女好きだった。


そのためにこうして人妻系のメンズエステをチョイスしているわけだが、彼女の出立ちはそれ故に少し彼をガッカリさせるものだった。


軽く雑談をした後に彼女に『シャワーの準備ができたので浴びてください』と促される。

『私もその間に着替えます』と言うので「着替えなんてあるの?」と尋ねると『ベビードールになります』と言う。

いままでそんなサービスはなかったと思うがこの嬢オリジナルのオプションなのだろうか。


しっかりと全身を隈なく洗い、紙パンツを履きタオルで巻いてシャワールームの外に出ると、『お疲れ様でした』と先程の嬢がベビードール姿で出迎えてくれた。


だが彼はそれ以上に、目を奪われてしまう部分があった。


黒髪ロングになってる…


んん!?


え?金髪のショートじゃなかったっけ…


んん?ウィッグ?


『じゃあ早速はじめていきまーす』


そう言って彼女はまず彼にキスをし、すぐに彼の股間をさすりはじめた。


「ええ?いやちょっとちょっと!」

『どうしました??』

「え、キミ誰?」

『え?』

「あ、いや、まあいいや。じゃなくて普通にキスして触ってきてるけどこれメンズエステじゃないの?」

『まあほら、年末なんで』

「ええ!」

『嫌ですか?やめます?』

「いや、嫌じゃないしやめないし寧ろスーパーありがたいけど、キミ髪型変わった??」

『ええ?どういう口説き文句ですか?』

「ええ?口説いてないよ!」

『ええ?どういうこと?』

「ええ??」

『じゃあ続けますよ』

「いやいや、オプション代は?」

『内緒にしてくれます?』

「え?うん」

『実はウィッグです』

「え?そっち?」

『私坊主なんです』

「ええ!?」

『オプション代は無しで大丈夫ですよ』

「ええ!?いいの?ってか坊主なの?」

『見ます??いいですよ』

「……ほんとだ」

『ね?』

「お願いがあるんだけど」

『本番はゴムあればいいですよ』

「ウィッグつけてくんない?」

『ええ!?そっち!?』


この後の流れはもはやメンズエステのメの字もエの字もなく、完全にセックスだった。



だが坊主頭を一度みてしまったため彼はあまりエレクトせず、やむなく希崎ジェシカが森林原人に「この露出狂!」と詰られ『露出狂じゃない!』と否定すると「じゃあお前はいま何やってるんだよ!」とさらに詰られながら猛烈にバックから突かれるシーンを想像してたぎらせた。

とにかくエレクトタイムが長続きしないのがわかっていたため、一生懸命腰を振り発射させた。



90分15000円が泡のように消える。


『次きたときはどんなウィッグがいいですか?』


勘弁してくれ。坊主は坊主だよ。伸ばせ。


「最後にひとつだけお願いしていい?」

『なんですか?』


「頭、撫でさせてくれない」


こうして彼は彼女の頭を撫でた。



不思議なもので、憑き物がとれたような気がしたという。


そして少しだけ、頭が良くなった気もした。



神社で坊主に厄落ししてもらわないといけないところを

彼はメンズエステで坊主に厄落とししてもらったというわけだ。



とても不思議なお話。


2024年。この1年、彼にはどんな出来事が待っているのだろうか。








1月1日16時5分。

石川県能登半島沖にて震度7を超える地震が発生。

元旦ということもあり、この時間私は両親と雑談していたが、東京でありながら長い時間ややゆっくりとした横揺れをはっきりと感じた。

昨年のゴールデンウィークに旅行の為訪れた長野県のバスの車内で、それぞれの乗客の緊急地震アラートが一斉に鳴り、そのけたたましい音もあってパニックになったことを覚えている。

その後のニュースで能登半島で大きな地震があったことを知り、映像では被災した地域の様子が映し出されており、凄惨であった。


故にこの正月の大地震については、また石川が…となった。


地震による建物の倒壊や火災、そして津波により多くの人命が失われた。

いまも多くの行方不明者がおり、多くの被災者の方々が険しい避難所生活を強いられている。


いくらなんでも、こんなひどい仕打ちはないじゃないかと心から思う。
あまりにも凄惨で残酷だ。
天災はいつも受け入れられない。到底。

同時に出来ることが限られているなかで、自分にできることを精一杯やっていくしかないと思う。


テレビの画面の向こう側で、NHKの女性報道員の緊迫感溢れる『いますぐ逃げてください!!』という声が響く。

何隻かの漁船が、沖へ沖へと猛スピードで走り上がっていく。


2011年の東北大震災の犠牲は、決して無駄ではなかった。

色々な経験があり教訓があり、生命が救われていく。


今年は個人ではなく日本として、立ち上がる1年にしようではないか。


亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈りいたします。
この1月1日を忘れません。

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