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渡れない橋

目の前に橋がある。
全長500m
幅2m
標高2000m
無風

この橋を渡らなければ、次に進めない。
でも、渡れない。
なぜ渡れないのだろうか。

2m幅の道を踏み外すことがいまだかつてあっただろうか。いや無い。
500mの道を歩き切れないことがあっただろうか。いや無い。

標高2000m。これがネックだ。

よろめいたら落ちてしまう。
万が一足を踏み外したら落ちてしまう。
急に風が吹いたら。
地震が起きてしまったら。

そんなことを考えれば考えるほど足がすくむ。

かつてこんなことを聞いたことがある。
人は恐怖心という自己防衛本能があることで危険を予め察知できるのだと。

それゆえ私は今、この橋を渡れないのだ。

落ちてしまったら大変だ。
親に合わせる顔がない。
落ちてしまったら大変だ。
会社にも迷惑がかかる。
落ちてしまったら大変だ。
痛いどころの話ではない。

だが、この橋を渡らなければならない。

大丈夫。
幅が2mもあるんだから。
大丈夫。
500mしかないんだから。
大丈夫。
無風なんだから。
大丈夫。
普段できていることをやるだけだ。

言葉を発するだけ。
想いを伝えるだけ。
聞いてもらって返事を受けるだけ。
普段できていることをやるだけだ。
大丈夫。きっと、大丈夫。

意を決して、この橋を渡ってみよう。


「僕と、結婚してください」


「やっと、、渡ってくれたね。ありがとう」


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