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個性とはなんぞや③

作品展に展示するはずの小5ムスコの絵がまずいと、学校に言われた。
「銃が描かれているからだ」と。ムスコは絵を修正するように言われ、2回直した。

まずいと感じる事情はなんとなく分かる。分かりはするのだが、私はなんだか兄の事を思い出していた。

兄は、大人になってから発達障害とやっと診断された。
しかし、私たちが子どもの頃は「発達障害」なんて言葉はなく、兄はただ物分かりの悪い、扱いにくい生徒として、周りの大人達に認識されていたように思う。
身近にいたら困る、存在を隠した方がいい「恥ずかしい人間」だと、たぶん思われていた。

兄は中学へ入ると段々と学校へ行かなくなり、遂には不登校となった。
不登校となった兄がたまに学校へ行くと、進路指導室へ行って担当の先生と話をしたり、そこで好きな絵を描いたりしていたようだった。

3つ離れの兄は卒業し、代わりに私が同じ中学へ入学した。

ある日、進路指導室の掃除当番になった私は、ガラス張りの壁に貼られた絵に気が付いた。見覚えのあるタッチ。兄の絵だった。
絵の下には
「空の暗さは、心の暗さを表現しているのか。」
みたいなコメントが添えられていた。

一緒に見ていたクラスメイトは
「なんか、怖いね。」
と、言った。
確かに、怖いと感じてしまうようなコメントが添えられていたのだった。
友人に、「これはたぶん私の兄の絵だ」とは、とても言えなかった。

ただ、兄は空が暗かったから暗い空を描いただけで、心が暗い訳じゃないのにと思っていた。学校が勝手な解釈をしている事に、とても嫌な気持ちになった。

帰宅して、母に絵の事を話した。友人の話は、母が傷付くような気がしたから言わなかった。
母は
「やめてって言ったのに、いつまでも飾って!」
と、激昂した。
その後、母はおそらく学校に抗議の電話をしたんだと思う。
しばらくすると、絵は外されていた。

母は、飾られている事に怒ったんじゃなくて、勝手な解釈をして兄の絵が見せ物になっている事に対して怒ったんだと私は思っている。

「怖い」と言った友人は正直だっただけで、怖いと感じるのは自由だし、それを口にする事は悪い事ではない。
そして、他人が見て怖いと思う絵を描いてしまった兄は、ちっとも悪くない。好きな絵を自由に描いただけだ。

誰も悪くない。ただ、余計な解釈をして貼り付けた事だけは、本当に要らん事だった。

つづく。

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