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④倉橋惣三的、「幼稚園の先生にとって嬉しいこと」(幼稚園雑草より抜粋)

A. 人間の中恐らく一番清浄無垢な幼児の心から、清浄無垢の愛をば受取り得ること

人知れぬ大苦労のある保叔の仕事も、この直接的な人知れぬ大慰労を有している。それは他でもない。人間の中恐らく一番清浄無垢な幼児の心から、清浄無垢の愛をば受取り得ることである。そういう幼児たちから信用と尊敬とを以て深く親しみ慕われることである。実にこの人知れぬ慰労に保叔はその総ての苦労を忘れ得るのである。その労力の大いなることにおいて、その間接的慰労の途の甚だ薄きことにおいて、保叔は決して割のよい仕事でもなく、うらやむべき位置でもなく、少なくとも現在においては、他にもっとも慰労少なき仕事の一つである。しかし、一度よく、自ら個中の真味を味わうことの出来た人においては、これ程楽しい、これ程幸福な、これ程慰労多き仕事はないといわれている。ああ実に愉快です、幸福ですとは、尊敬すべき熱心なる保叔諸君の口から、しばしばもれる自白である。しかしてこの慰労を得ることなくして保叔の業に従うている人があったら、恐らくその業に堪えぬことであると思う。

幼稚園雑草(下)p14~15

私見を少々

先生にとって嬉しいこと。自分は実習生という立場しか経験したことがないので何とも言い難いが、嬉しかったことを少し振り返ってみる。

正直、毎日を一生懸命過ごしていて、光陰矢の如く時間が過ぎていってしまったので、特段これが嬉しかったという記憶があまりない。そもそも論、ドイツの森の幼稚園で実習できてること自体が嬉しかったので、いつもが嬉しい状態だった。その状態からさらにそれを上回る嬉しさを感じないと、「めっちゃ嬉しい」と感じられる状況ではなかった。普通に暮らしてたら嬉しいことなんだろうけど、常に嬉しい状態でいてそれが当たり前になっていたので、なかなか嬉しい出来事というのはめったに起こらなかったと思う。

Tちゃんの「キーくんに会いに行くために、日本へ行く」

僕が「嬉しかったことは?」と尋ねられてよく答えるのが、一番僕に懐いてくれたTちゃんが、「キーくんに会いに行くために、日本へ行く」と歌っていた動画を見た時である。ヴァルトツヴェルゲ森の幼稚園で日本の音楽祭を自分が他のトビタテ生と一緒に開催した際、自分の大学の後輩がその様子をビデオで撮ってくれていた。自分は司会を担当していてドタバタしていたので当時は気付かなかったのだが、ビデオには僕が気付いていないところでTちゃんが「キーくんに会いに行くために、日本へ行く」って口ずさんでいた様子が捉えられていて驚いた。

Tちゃんが僕を通じて日本に興味を持ってくれたことはもちろんのこと、会いに行きたいって思ってくれたことは嬉しいですよね。

THE 森の幼稚園的な体験

他に印象が残っているのは「ハンモック事件」である。

ヴァルトツヴェルゲ森の幼稚園にはハンモックが設置してあり、子ども達から「世界一ハンモックを揺らすのがうまい人」という栄誉ある称号を頂いていたのは、この記事で書いた通りです。そんな僕ですが、ハンモックに関して1回やらかしてしまったことがあります…

ある日の実習でいつものようにハンモックを揺らしていると、乗っている子どもが「もっと速く!」と言うので速く揺らしたら、子どもが勢い余って顔から地面へ落ちてしまいました。そしてハンモックを手につかんでいたままだったために顔が地面に擦り付けられてしまいました。子どもの顔は血まみれで、泣いてしまいました。鼻血が出ていたのですぐに持っていたティッシュで止めようとしますが、止まる気配がありません。

その状況を見ていたある先生がすぐに救急箱を持って来て手当をすると同時に、救急車を呼んでくれました。その子どもは教育主任が付き添って病院へ運ばれることになりました。私は責任を感じて泣いてしまいましたが、ある先生が側に来てくださって、「森の幼稚園で事故はよくあることだし、保護者の方はそれを十分に理解している。決してキーくんを非難することは無いから、心配しないでね。」と慰めて下さいました。ある子どもからは、「キーくんは悪くないよ、だって怪我した方が『速く揺らして!』って言ったんだから、そいつの責任だよ。」とも言われましたね。そうやって慰めようとしてくれたのは素直に嬉しかったですが、やっぱり自分は責任を感じていたので、「確かに『速く揺らして!』とは言われたんだけど、でも、子ども達の安全を守ることは僕の仕事の一部だから、怪我をさせてしまった時点で、自分としてはとても情けない気持ちになってしまうんだ。」と伝えました。

その日の森の幼稚園が終了する時に教育主任が戻ってきて、その子どもの無事を伝えて下さいました。私は安心すると同時に、まだ心が晴れない気持ちでした。そんな私に教育主任は「私も若い頃失敗したことがある。私と子ども達が各自ろうそくを持って1列に歩いていたら、私の持っていたろうそくの火が後ろの子どもの髪の毛に移ってしまって、その子の髪の毛が半分焼失してしまったんだ!」と自らの豪快な失敗談を話してくれました。それを聞いて、尊敬する教育主任でも失敗したことがあるんだと、なんだか気持ちが少し楽になりました。

その事件が起きて子どもが病院に運ばれたのが木曜日で、その子は金曜日に来ませんでした。土日を挟んで、月曜日になってもその子は来ませんでした。私は自分のせいでその子は森の幼稚園に来たくないのではないかと考えて、責任を感じていました。その子は火曜日になって、ついに森の幼稚園へ来ました。保護者と一緒に登園してきた時に私はすぐその子の元へ行き、保護者と子どもに謝罪しました。すると保護者の方は「心配しなくていいよ。怪我はよくあることだから。今回の件で子どももいろんなことを学んだと思うわ。キーくん、またいつものように遊んであげてね。」という何とも温かい言葉をかけて下さいました。素直に嬉しかったですが、そうはいっても、もう子どもは自分とは遊びたがらないだろうと考えていたら、その子が突然「キーくん、ハンモック揺らして!」って言ったんです!!もうその瞬間、子どもに救われたって気がしました!凄く凄く嬉しかったです!!保護者の方も笑っていました。「よし!ハンモックで遊ぼう!」と言って、その子を乗っけてハンモックを揺らしてあげました。揺らしている間はその子が「だけどあんまり速くはしないでね」と言ったので、慎重に揺らしました。ちゃんと学んでるなと感じました。先生方の優しさ、保護者の覚悟、そして何より子どもの「スゴさ」を体験した出来事でした!

こまごまとしたこと

前に書いた記事より抜粋☟

・キーくんと呼ばれる
・「早く終われ~」と思ったことが一度もなかった
・大人しめの子どもが、自分と遊ぶ時ははしゃいでくれた

もちろん、子ども達の成長とかも嬉しいことなんだろうけど、自分は一年間しかいなかったからな。せめて、入園した子ども達が卒園するまでの3年間は子ども達に寄り添ってから、成長うんぬんかんぬんは言いたいなと思う。

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