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マイクロノベル

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2021年7月の記事一覧

マイクロノベル37-48

マイクロノベル37-48

37.
こんな山の駅でどう時間を潰そうか考えていたら、汽笛が聞こえた。見ると、煙を吐きながら汽車が近づいてくる。汽車は僕の目の前で停まった。客車の中では親子づれが笑い声をあげている。汽笛を鳴らして、汽車が走り出す。車窓の風景は山から田園に変わり、やがて異国の風景になった。

38.
アドレスを記憶してデータの海にダイヴ。目標は近いはずだった。ところがデータがねっとり絡みついて思うように動けない。罠

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マイクロノベル1-12

マイクロノベル1-12

1.
地下鉄工事の現場から巨人の遺骨が出土した。身長15メートル。保存状態は極めてよい。同時に出土した装身具から、戦士だったと考えられる。年代測定の結果は縄文時代末期。肋骨に銃創があり、これが致命傷だったと推測される。縄文時代に銃撃はありえないと議論を巻き起こしている。

2.
その夜、流星群が降った。あんなにたくさんの星が降るのを見たのは初めてだった。僕たちは公園のベンチでただ空を見上げてい

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マイクロノベル13-24

マイクロノベル13-24

13.
図書館に入ってすぐの所に大きな台があって、一冊の本が置かれている。革装で分厚いその本は図書館ができた時からずっとそこにある。訪れた人々はまずその本のページをでたらめに選び、嬉しそうな顔をしたりちょっと残念そうな顔になったりして、それから目的の本を求めて中に入る。

14.
この町で生まれた人のほとんどは、ここで恋をしてここで子供を育て、町から一歩も出ることなく生涯を終える。高い塀に隔てられ

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マイクロノベル25-36

マイクロノベル25-36

25.
スピーカーからカウントダウンの声が聴こえている。展望台は発射の瞬間を待ちわびる人々で溢れている。ここに来ようと言い出したのは彼女のほうだ。銀色のロケットが炎を吹き出し、少し遅れて轟音が届いた。「愛してるよ」僕の言葉は彼女の耳に届いただろうか。ロケットが上昇する。

26.
博物館の人類史のコーナーに人類の祖先の骨格レプリカが置かれている。今の人間よりずっと小さなその標本の眼窩を除きこむと、

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