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マイクロノベル1-12


1.
地下鉄工事の現場から巨人の遺骨が出土した。身長15メートル。保存状態は極めてよい。同時に出土した装身具から、戦士だったと考えられる。年代測定の結果は縄文時代末期。肋骨に銃創があり、これが致命傷だったと推測される。縄文時代に銃撃はありえないと議論を巻き起こしている。

2.  
その夜、流星群が降った。あんなにたくさんの星が降るのを見たのは初めてだった。僕たちは公園のベンチでただ空を見上げていた。星が降るたびに彼女が僕の手をぎゅっと握りしめた。彼女とはその日そこで出会った。もう顔も思い出せないけれども、その手の感触と流星の輝きは忘れない。 

3.  
緩い坂道を登りきったところに君の家がある。緩いとはいえ、炎天下にはいささかきつい。子どもたちが笑いながら駆けぬけていく。アイスクリームが待っているのだろう。ようやく坂道の終わりにたどり着く。今はただの空き地でしかないのに、どうして僕はここに来てしまうのだろう。 

4.  
明日がやってくる。永遠に今日しかないと思われていた世界に明日がくる。明日の足音は静かに、だけど着実に大きくなっている。明日の訪れを待ちわびる人々、そして明日を怖れる人々。社会は大きく分断されている。新しい宗教が起こり、政府を追及する声が大きくなる中、明日が訪れた。 

5.  
照りつける日差しの中、救世主が降臨した。救世主は公園にひっそりと降り立ち、額の汗を拭うと、水飲み場で水をひと口飲んだ。蝉の鳴き声の向こうから、子どもたちの声が聞こえてくる。どうしたものかなと救世主は呟いて、ポケットからコインを一枚取り出し、投げ上げた。表か裏か。 

6.  
二週間は飛ばないようにと医者に言われた。降りるときに、よそ見をして左の羽を木に引っ掛けてしまったのだ。  
「君まで歩かせてしまって」カフェに落ち着いて、そう口にすると、「たまには歩くのもいい」と彼女が答えた。  
そうだね、僕たちは飛ぶことに慣れすぎているかもしれないね。 

7.  
駅前広場で青年が大声で話している。内容は分からないけれど演説のようだ。政治か宗教か。人々は関心を示さない。小さな女の子が近づいて、真似するように大声で喋り始めた。ほかの子どもたちも集まり出した。みんな大きな声で喋っている。声が重なって、荘厳な響きが生み出される。 

8.  
子どもが向こうの空を指差して女性に何か話している。目をやると、日の光を反射して銀色に輝くものが浮かんでいた。ああ、今日は飛行船が来る日だ。急いで広場に向かうと、たくさんの人々が係留塔を取り囲んでいた。いくつかの貨物が降ろされている。僕宛の手紙はきっと入っている。 

9.  
遠くで波の音がする。かすかに、けれども間違いなく波の音だ。聞こえてくるほうに歩いてみよう。目的などないのだから。森の中を進むと鳥の鳴き声で波の音がかき消されそうになるが、耳をすませば確かに聞こえている。やがて森は途切れ、野原が広がっていた。きっとこの先に海はある。 

10.  
公園に小さな音楽堂があって、ときおりささやかな演奏会が開かれる。聴衆はいつも数えるほどだ。日が傾いて気持ちいい風が吹いている。子どもたちが遊ぶ声が聴こえる。今日の奏者は初めて観る女性で、いつもと少し空気が違った。最初の音が鳴らされた瞬間、子どもたちの声がやんだ。 

11.  
今年の夏はただごとではない暑さで、少し歩くだけでも汗が吹き出てくる。街路樹の木陰を見つけ、照りつける太陽を避けてひと休みする。アスファルトの上で陽炎がゆらめく中、小さなものがひらひら舞い落ちるのが目に入った。目をこらすと、それは僕の近くにも落ちてきている。雪だ。 

12.  
ハンドルを一回転させると数字がひとつ印字された紙が出てくる。子どもたちが夢中になってハンドルを回し続ける時もあれば、誰もハンドルを回さずに終わる日もあるが、平均すれば毎日数回ハンドルが回されている。数字の意味は分からない。でも、世界の秩序はこれで維持されている。

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